白雪姫と七人の小坊主達
なまあたたかいフリチベ日記
DATE: 2014/10/30(木)   CATEGORY: 未分類
早稲田祭に来てくださる方へ
 11月1日に『オールド・ドッグ』にお越しくださる方、キャンパス内は混雑しますので、会場から近い北門をめざしてください。北門を入ってすぐ右の建物の二階です(一階はゼロ階 笑)。下の地図はクリックすると大きくなります。バス停・地下鉄駅と会場の位置関係がわかります。

 教室での映写になるので何かと行き届かないことがあるかと思いますが、お待ちしております。

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監督や映画の評価については、別サイトに詳しくあげました。こちらからどうぞ

マイノリティ、民族問題、中国政治、ミニシアター、文芸系の方におすすめです。

映画『オールド・ドッグ』とチベットの今
*日時:11月1日
*場所: 早稲田大学本部キャンパス15号館101
*料金: 学生: 無料 一般: 500円
*プログラム
14:00 開場  14:15 開演: 司会挨拶
14:30〜16:00 『オールド・ドッグ』※2011年東京フィルメックス国際映画祭・最優秀作品賞上映開始
16:00〜17:00 石濱裕美子解説「チベットの今」※中国の入る前のチベットの貴重な映像もご覧になれます。
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DATE: 2014/10/21(火)   CATEGORY: 未分類
ダライラマ本の新刊情報
●『思いやること 心を育てるための小さなコツ』東洋出版
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 本書の原典はアメリカの著名なチベット学者ジェフリー・ホプキンスがダライラマ14世の講演を要領よくまとめたものである。ホプキンスは70年代から80年代にかけてダライラマの通訳を行っており、40冊以上のダライラマ本を英訳し、バージニア大学を初めとする名門大学で多くのチベット学者を育て上げた。仏教学者である。

 その彼が編集した本書は序文からしてチベット仏教のみならずチベットをとりまく状況全体に目配りがされており、最後には、チベット仏教の伝統的な手法に基づいた「アンガーマネジメント」と慈悲の心の起こし方が述べられている。

 最近、イスラム国の戦闘員となろうとした北大生や実際に参加した若者が話題になって、そのインタビューをテレビでみた。彼らはイスラムの教えに共感して国を作ろうといのではなく、実際彼らを戦地に駆り立てているのは、日本での自分の生活を意味のないものと感じ、それをリセットとするための生き場所=死に場所を探しであった。

 戦闘員になれば、上から命令があれば、罪もない住民を殺すことになる。何にもなれない・何にもなる気のない病んだエゴがだした結論が、異教に改宗して異郷にいって人を殺すことだったのだ。
 こんな若者に本書より法王の言葉を捧げます。
 「モラルの低下を食い止めよう」とやかましく騒ぐだけでは足りません。何か行動を起こさなくてはならないのです。・・・人類が抱えている問題を解決するには、学者、教育者、ソーシャルワーカー、神経科学者、医者その他あらゆる分野の専門家が集う会議を組織する必要があります。人類の行動が及ぼしてきたよい影響、悪い影響についてそして教育システムに何を取り入れ、何を変えるべきかについて話合う必要があるのです。。
 子供の健全な成長には、適切な環境が欠かせません。テロリズムを始め、あらゆる問題は教育を通して解決することができます。とくに幼稚園・保育園の段階から、他者への気遣いを教えることが大切です。けんかをしたり、だましたり、いじめたり、こんな行為が今日の現状を生み出してしまったのです。」


 法王のこのような提言に基づいて設立されたダライラマ財団(Dalai Lama Foundation)は教育の場に、本書で説かれているような怒りのコントロール法を普及していく活動をしている。怒りは健康を損ない、幸福感を奪い、自分の評判をおとし、何一ついいことはない。しかし、その怒りをコントロールし、さらに他者を気遣う気持ちを養うことに成功すれば、世界中の敵を友に変えることができ、多幸感と健康がもたらされる。
 ギュメの高僧たちもおっしゃっていたが、自制のトレーニングは、最初はなかなか難しくてなかなか敵を愛することはできないけれど、毎日続けることによって心は少しずつ変わっていくのだという。だから、とにかく始めること、続けることが大切である。

次にご紹介する本は

●飛鳥新社『心を見つめる言葉』
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これは、ダライラマ法王が英語で発信されている公式ツイッターの対訳本である。14年10月21日時点で法王のフォロワーは9,578,209人で、今後も増えていくであろう。このツイッター中の人はたぶん法王ではなくチベット政府の広報だろうけど、その言葉は法王が講演などで何度も言及されている内容である。見本頁をアマゾンからもってきました。一ページに一ツイートなのでとても読みやすいです。

見方によっては、世界の主な宗教はみな同じことを目指しているといえます。それは一人ひとりの善の心を養うことです。

物質的な発展も必要です。しかし、それだけでは心の平安は得られないことを忘れてはなりません。

 自分の一つの欠点に気づくことは、他の人の千個の欠点に気づくより、はるかに有益なことです。自分の欠点は自分で直せます。

 他者を愛せる人ほど、ゆるぎのない自信を持てます。勇気がある人ほど、ゆったりと構え、冷静でいられます。
 
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そして、最後に紹介するのは池上彰さんの仏教本。これは前に書評かいたのですが、今回文庫化してよりお求めやすい値段になりました。
 
●飛鳥新社『池上彰と考える、仏教って何ですか? 』
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 要約すると、仏教の思想って難しいと想ってない? そんなことないんだよ。池上さんがわかりやすく説明するよ。仏教って理性的で論理的で素晴らしい思想なんだ。チベットのお坊さんはよくこの教えを体現しているよ、という本。初学者に仏教の魅力がよく伝わる内容となっている。本書より抜粋。

  このように私が仏教に期待しているのは、実際に期待に応えてくれる人物がいるからです。残念ながら日本仏教ではありません。今のところ私に仏教への希望を抱かせてくれるのは、チベット仏教を代表する最高指導者であるダライ・ラマ十四世です。
 

これとともにブータン研究者の今枝由朗著『ブータン仏教から見た日本仏教』(NHKブックス)もあわせてよむと、日本仏教ってこういうものだったのか、というのがよく分かります。
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DATE: 2014/10/10(金)   CATEGORY: 未分類
映画『オールド・ドッグ』とチベットの今
早稲田祭でチベット人ペマツェテン監督がとった『オールド・ドッグ』を上映します。
「チベットの今」という演題で私も解説します。詳細はこんなカンジです。

映画『オールド・ドッグ』とチベットの今
*日時:11月1日
*場所: 早稲田大学本部キャンパス15号館101
*料金: 学生: 無料 一般: 500円
*プログラム
14:00 開場  14:15 開演: 司会挨拶
14:30〜16:00 『オールド・ドッグ』上映開始
16:00〜17:00 石濱裕美子解説「チベットの今」

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※主催: オールド・ドッグ上映委員会 
  共催: 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
言語の動態と多様性に関する国際研究ネットワークの新展開(LingDy2) プロジェクト

 チベットをテーマにした映画は、マーティンスコセッシ監督『クンドゥン』(1997) ジャンジャック・アノー監督『セブンイヤーズ・インチベット』(1997)など数多く作られてきたが、ハリウッドのメジャーで公開されたため、若き日のダライラマが直面する亡国の悲劇の描写には素晴らしいものがあったものの、ダライラマ14世をはじめとするチベット人がみな英語をしゃべる違和感と闘わねばならなかった(笑)。

 しかし、この『オールド・ドッグ』は主人公はチベットの庶民であり、使用言語はむろんチベット語で、監督も本土チベット人。そこで描かれるテーマは、漢人の支配下において、急速に失われていくチベットの民族性である。本土チベットで映画制作を行うという制約がある中で、監督はよくここまで踏み込んだ描写を行ったものと思う。
 
 そこでは二種類のチベット人が描かれている。一方は、民族衣装をまとい、昔ながらの遊牧生活を営むチベット人、もう一方は漢人の社会に溶け込んで漢人と同化して生きるチベット人である。前者の代表は主人公の老人である。彼は遊牧生活を営んでおり、一人息子のゴンポとその嫁ルンツォが同居している。息子のゴンポは二種類のチベット人の境界に存在しており、馬ではなくバイクにのるがその胸中は父に共感する部分もある。

 一方のチベット人は町にすむチベット人で、老人の甥で町で公安の職についているドルジや小学校教師をやっているルンツォの姉である。中国政府は漢人の数の力でチベット人の同化を勧めているので、後者は生きるためにもっとも適した職業選択をおこなったにすぎない。彼らはもちろん普通にいい人たちで、牧地にすむ老人一家のためにいろいろと力になってやっている。
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 主人公の老人はチベッタン・マスチフの老犬を飼っている。チベットの遊牧民は狼や盗賊から家や家畜をまもるため、昔から巨大な犬を飼う習慣があった。チベタン・マスチフは世界最大の犬であり、チベットでもドム(熊)と呼ばれている。この世界一というフレーズが経済力をつけた漢人の富裕層の虚栄心にマッチし、多額の現金をもつ彼らは、「国産」(漢人からみるとチベットは中国)の世界最大の犬を手にすることに奔走した。そのためチベッタン・マスチフの市場価格はつり上がり、チベットの遊牧民の家庭からチベット犬が盗まれ続けた。その泥棒の中には中国人もいれば、金に目のくらんだ若い世代のチベット人たちもいた。

 そんな悲しい状況の中で老人は孤高である。どうせ盗まれるくらいならお金に換えようと息子のゴンポが中国人の王(ワン)に犬を売りに行くと、それを取り返しにいく。

 なぜなら、その純潔種の老犬こそ、伝統的な遊牧民の生活スタイルと価値観の象徴だからだ。この犬を金に換えるということは、老人にとってチベット人の魂を捨てて漢化(=金)を受け入れることにほかならない。

 漢人と漢化したチベット人はお金以外の尺度がないので、老人が犬を売らないのは、もっと値をつり上げようとしているのだと邪推し、さらに犬の値段はつりあがっていく。もちろん、老人は決して売ろうとしない。
 犬泥棒は常時そのあたりをウロウロしている。

 さあ、老人が最後に下した決断は・・・・。

 て、もちろんめちゃめちゃに暗い話にしかなりません。

 学生はこういう。「センセー、早稲田祭っていうのはね。AKBとかアイドルの公演がとっても安く身近なキャンパスで見られることで皆もりあがるんですよ。こんな渋い映画に誰もきませんよ」という。

 私「でも学生無料にしたし、ミニシアターや文芸ファンには共感してもらえると思うし。香港国際映画祭や東京フィルメックス映画祭で金賞もとっているよ。学園祭でこういう硬派の企画するのは王道だよ」

 学生「でも友達誘っても誰一人応じてくれないんですよ」

 え、学園祭っていつからアイドルの公演と屋台の集まりになったわけ?  私いつのまにか主人公の老人状態?

 というわけで、このページをご覧になっている方にお願い。
 みなさんの周りでミニシアターとか、マイノリティとか、民族問題とかに興味のある方に、この企画の詳細をお伝え頂けないでしょうか。
 映画は暗いです。ラストは見るにたえません。
 しかし、これは今現在進行している一つの現実で、深奥の部分ではじつは私たちともかかわっている問題なのです。

 私たちも、グローバリゼーションに巻き込まれていく中で、合理性・経済性の名の下にいろいろなものを失ってきました。
 一方でマジョリティの一員として異なる他者に自分の考え方を押しつけることもあります。
 この孤高の老人と老犬(オールド・ドッグ)は私たちの認めたくないこの状況を思い起こさせてくれます。

 みなさま、ぜひぜひ早稲田祭の見学もかねておこしください。ゼミのOB の方、私が空気にしゃべることにならないようにご協力お願いいたします。
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DATE: 2014/10/04(土)   CATEGORY: 未分類
出雲・雲南チベット・フェスティバル2014
 出雲の峯寺で、12月7日、第二回となるチベット・フェスティバルが行われます。
私も講師として参加予定であり、今回のガワン先生の生まれ変わりを訪問した際に見聞した不思議なお話しを中心に、チベットのお話をさせて戴きます。いっぱい写真とってきましたのでご覧ください。

 奇しくも、明日は出雲大社の権宮司の千家国麿さんと高円宮典子様の婚儀が出雲大社で執り行われる。出雲大社の宮司の家系は天皇家と同じくらい古く、この二家が結びつくことはなんだかとっても歴史家魂がざわざわする。
 今年はこの婚儀と遷宮効果により、出雲への観光客は例年になく多いとのこと。
 みなさんも、聖地出雲の観光もかねて、出雲チベット・フェスティバル14年にお越しくださいませ。
 
チベットのみならず世界中の山々を制覇してきた、出雲出身の登山家、渡部秀樹さんのお話しはおもしろいですよ~。私はアフガニスタンのゲリラとの遭遇の話とか印象に残っています。
 では、出雲でお会いしましょう。

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 日時: 平成26年12月7日
場所::出雲大峯 峯寺(島根県雲南市三刀屋町給下1381)
TEL0854‐45‐2245
FAX0854-45-5105
E-mail k.matsuura@mineji.jp
参加費: 前売り1,500円 、 当日2,000円
お申込み:このイベント欄にお申込みください。或いはTEL・FAX・E-mailで峯寺、または実行委員メンバーまでお知らせください。後日チケットの受け渡し方法などを連絡させていただきます。

日程
10:00~11:00 護摩供養(諸願成就の祈願会)
11:00~ お斎(おとき)のお接待 テントゥクもあります。
13:00~13:30 ドキュメンタリー映画「ジグデル~恐怖を乗り越えて」上映
13:30~14:00 スライド・トーク「山から見てきたチベット」 講師 渡部秀樹氏
休憩(10分)
14:10~15:40 講演会
演題「チベットの僧院にトゥルク(高僧の生まれ変わり)を訪ねて」
講師 石濱裕美子先生

※午前中、峯寺で毎月第1日曜日に行われる護摩供養の行事があります。良い機会ですのでこちらにも是非ご参加下さい。なお、護摩供養は紅白の金封に「御供」とし、祈願料(1000~2000円程度)を納められるのが通例のようです。護摩供養参加者には峯寺より昼食としてお斎(簡単な食事)や、今回は特別にチベット軽食・テントゥク(チベット式すいとん)も用意していただく予定です。

◎映画「ジグデルー恐怖を乗り越えて」
2008年トンドゥプ・ワンチェンがチベット本土で極秘に取材したドキュメンタリー。100人以上がチベットの状況についてどのように考えているのか顔を隠さずインタビューに応えています。

◎渡部秀樹氏
チベット世界を歩いて30年以上の登山・探検家

◎石濱裕美子氏(早稲田大学教育・総合科学学術院教授)
 文学博士。早稲田大学大学院博士課程修了。同大学教育学部専任講師、准教授を経て現職。専門はチベット仏教世界(チベット・モンゴル・満州)の歴史と文化。
編著書に『世界を魅了するチベット「少年キムからリチャード・ギアまで」』(三和書籍)、『チベット仏教世界の歴史的研究』(東方書店、2001)、『チベットを知るための50章』(明石書店、2004)、訳書に『聖ツォンカパ伝』(大東出版社、2008)、『ダライ・ラマの仏教入門』(光文社)、『ダライ・ラマの密教入門』(光文社、2001)などの他、最近では早稲田大学学術叢書「清朝とチベット仏教」を刊行。
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DATE: 2014/09/29(月)   CATEGORY: 未分類
研究者の非リアな夏
 本当はギュメの最終回をアップする順番であるが、明日で九月も終わるため、この夏をまるまるつぶして行ったチベット医学の薬材研究についてのグチあらましを先にアップする。

 チベット医学はインドのアーユルヴェーダ医学に仏教をブレンドした理論をもち、臨床で用いられる薬は、熱帯から寒帯まで存在するチベット高原の豊かな動植物・鉱物を背景に、他に例を見ない豊かな種類と効能を誇っている。

 チベット医は山野を跋渉して薬草の採取を行い、それを乾燥させたり抽出したりして丸薬を作り、地域の人を治療する。この夏、たまたまダンナがアムドの大学に集中講義にいったところ、学生のオジサンがチベット医だったので、ケータイでお話させて戴いた。彼は牧民地域で小さな診療所を開業しており、中国から輸入した西洋薬や漢方を販売する傍ら、ちゃんと山にはいって薬草を採取し伝統的な治療も行っているという。

 「インド医学も中国医学もチベット医学を自らの一部と考えるきらいがありますが、それについてどう思いますか」

 チベット医それぞれの医学にはそれぞれの体系をもつのだから、それぞれでがんばればいい」。
 
 チベットの医学はもちろんインドとも中国とも独立した医学ジャンルであるというわけね。

 「チベット医学のここは素晴らしいというところは」
 チベット医西洋の薬は毎年新しい薬がでてくるが、チベットの薬は千年かわらぬ処方である。

 効くから伝統の処方が継続してきたという誇りを述べられた。

 で、この夏は来年二月にでるチベット医学の専門書の準備にあけくれた。

 この本は第一章で先行研究を扱い、第二章でチベット医学のバイブル『四部医典』の中の、薬材とその効能について述べる箇所の訳註を行い、第三章でチベット語で「トゥンペ」('khrungs dpe)と呼ばれる本草書(薬材事典)の翻訳を行い、第四章で薬材の臨床での実物用例を一覧表にする。

 本書発行の大きな目的は、チベット薬に興味をもち植物学や薬学の知識をもっているけど、チベット語が読めない方に、裨益すること。具体的には『四部医典』を訳註する場合には、チベット人が『四部医典』を読む際に用いる伝統的な二大注釈書『祖先の教え』、『青瑠璃』を用いて解釈する。

 『四部医典』のテクストはいくつもの版があるものの、その内容はほとんど同じで、相違点は字句の綴りくらいのささいなものである。開版された場所が、ブータン、北京、ラサ、デルゲなど距離的にも遠く、また、時間的にも様々な場所で彫られているにもかかわらず、テクストがほとんど同文ということは、チベット人がいかに、聖典の字句をゆるがせにせず受け継いできたかを示している。

 なので、まずはチベット人の理解にもとづく、薬材とその効能の理解を示すことには意味があろう。

 『四部医典』の当該箇所の翻訳はすでに雑誌で発表済みであったとはいえ、十年かけてちんたらやっていたので、訳語の統一とか、文献参照を行っている場所があったりなかったりと一貫性がなく、とてもそのまま使えるようなしろものではなかった。ここでメンバーの一人西脇さんが苦労して注釈をつけなおしてくれ、私がそれを泣く泣く編集した。

 次に、ある薬材の名の下に臨床でどのような学名の動植物・鉱物が実際に用いられているかを扱う第四章の作業は殺人的であった。我々が収集しえた限りの学名の記載のあるチベット薬材の研究書は14冊。初めはこの14冊にみえる学名をまずデータベースに入力し、その情報を総合した結果を出版しようと思っていたのだが、そううまくはいかなかった。

 まず、入力過程で、先行研究に記される学名のラテン語のミススペルがえらい多いこと、また英語の綴りをラテン語風の語尾にした、さまざまなバリエーションの謎の英語名が多いことに気づいた。また中国の植物分類は何か微妙によそと違う。

 ラテン語のミススペルはさすがに訂正するとしても、なんちゃって英語ラテンのバリエーションを統合するかしないかでメンバーはもめた。結局、もう語尾違うならそのまま別項目ってことでのせちゃえ。文献同士の参照関係もわかるから、ということになった。

 そして、運命の9月14日である。ダンナがアムドの某ホテルでデータベースの更新中に、うっかりそれまでの入力情報を消してしまい、バックアップをとっていた8/23日の情報にデータベースは戻ってしまった。

 もうデータベースをとおして情報を訂正したり、たしたりして、それを処理した結果を発表するなどという手順はふんでいる暇はない。そこで、とりあえず、手元にある9/13日時点の処理結果に手作業で必要最低元の情報をたしていくことにした。ローテク・・・。

 何度もいうが入力元の先行研究は14冊。

 メンバーの一人は昼の仕事以外にも老人介護をしており、もう一人は自営業で土日も仕事で夜しか時間はとれず、ダンナはアムドで手元に史料がないため、動けるのは私だけ。決して勤勉ではないこの私だけ。、しかもその14冊の大半は何となく私の研究室に集まってきている。

 関係ないけど、この時、20代の頃、仏教語彙集Mahavyutpattiを作った時を思い出した。あの時も、9565項目を北京版、デルゲ版、チョネ版、ナルタン版、モンゴル大蔵経二版の計6版で校訂する作業を来る日も来る日も続け、廃人になりそうだった。しかも私はもう二十代でない。

こうして昨日、苦労の結果の薬材・属名比定表がとりあえず完成。チラ見せするとこんな感じ。

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本当はいろいろ注記をつけた方が丁寧なのだが、紙幅の関係もあり、やりだしたらキリがないので、これはデータベースにいずれ入力することとして、以下のような見ようによっちゃかなり言い訳っぽい凡例によって、全力で逃げた(笑)。

(1) 学名は属名のみ挙げた(語頭を大文字表記)。ただし、鉱物類や他に学名がない場合は英語名を採録した(語頭を小文字表記)。
(2) 文献番号は第4章第1節にあげた文献リストの番号に対応する。
(3) 植物の分泌物、動物の体の一部、化石などが薬材として用いられることにより、基原生物の名称とその分泌物や一部分の名前が併存する場合もある。
(4) 代用品の存在などにより、一つの薬材名の名の下に有機物と無機物が混在している場合もある。
(5) ある薬材名称に、花の色、産出地域名称などの修飾語が附された下位名称が存在する場合、下位名称に対応する属名も採択した。ただし、ティクタなど数多くの下位名称をもつ薬材の場合、網羅的な属名の採択は行っていない。

 ちなみに、まだ三章の本草書の訳註は入稿していない。授業は始まるし、論文の締め切りはあるし、別件での訳註の締め切りはあるし、こんな状況なのである。

 すべてを放擲して温泉に行ってしまいたい。
 
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