白雪姫と七人の小坊主達
早稲田大学仏教青年会 ウォッチング日記
DATE: 2008/03/07(金)   CATEGORY: 未分類
専門書懐胎の瞬間
恩師がもうすぐ退官なので、弟子一同で「何か記念になるような本をつくろう、どういう本にするかはとりあえず研究会を開いて、中身を固めよう」というわけで、火曜日、懐かしい面々が大学に集まった。

 みないい年になり、偉くなっている人もいるが、顔をあわすとすぐに学生時代のノリに戻る。わたしはケンブリッジ大学が出している、ヒストリー・シリーズのような、大学の教科書として想定された固めの通史なんかいいのではないか、と思っていたが、みなの反対にあう。

 反対意見は、「そもそもモンゴルの領域の設定をどうするのか」「いくら人数がいるとはいえ、広大なモンゴル史のすべての時代をカバーするのはムリ」「その場合、他人の研究をそのまま調べて書くのなら出す意味がない」「ケンブリッジ・ヒストリー・シリーズ、なんてそんないいもんじゃないよ」などというものであった。


 で、彼らの考える本の構想とは、それぞれが研究対象としている時代やジャンルにおける、研究や資料をめぐる問題点を整理して、人々を啓蒙するような専門書にしようというものであった。
 

 テーブルの中央には、彼らがモデルとする某研究書がのっており、これのモンゴル版を造る、と彼らはいう。仕方ないので、参考までにその研究書を手に取ってみると、表紙は何の装丁もされておらず真っさら。題名もダサダサ、目次をみても章にも節にも分けられておらず、ただたら〜ん、と論攷が並列されているだけ。内容も研究者向けで固い。

地味。

私「やだよー、こんな地味な本研究者しか読まないよ〜。でも、日本全国にいるモンゴル史研究者の数なんて知れてるじゃん。何の反響もないよ。そんなんより、一般に向けた企画にして部数だそうよ〜」

先輩A「ボクはそういうポピュリズムは一番嫌いなんだよね」

私「学界の最前線を一般にわかりやすい形で提示するのは学者の義務の一つじゃん。もしどしても研究者を対象とするというのなら、英訳だそうよ。そしたら海外の研究者も加わるから少しは反響がでてくるよー」

先輩B「人ごとのように言ってもらっては困る。何か提起するなら、民主党じゃないんだから、具体的な案をだせ(英訳はいいだしっぺがしろ!)。」

 などと醜く言い争う。久しぶりで懐かしいので勢い舌鋒も鋭くなる(笑)。昔よく、研究発表のあとで、「あんたの研究なんか●×じゃん!」「あなたのだって××が証明できてないじゃん、何の意味があるんだ」と互いの研究を落としあったことを懐かしく思い出す(笑)。

しかし結局、みなで出す本なので、みなが「できない」というものを押し通せるわけもなく、研究者対象の本にすることに同意する。

 しかし、絶対、内容は汎用性のあるものにしてみせる。

 そのあと、先輩がモンゴル史研究の問題点をあげ、みなで問題点を整理する。

 多くのモンゴル史研究者たちは、現在の国家の枠組みや民族概念を、過去に投影して論じるという過ちをおかしていること、また、マルクス史観の影響の下、土地制度や支配関係などの解明といった非常に限定的なテーマばかりが論じられ、17世紀支配的なパラダイムであったチベット仏教が等閑に附されていることなどが提起される。

 まあ、一言でいうと過去の歴史を、その当時のあるがままがどうであったのかを追求するのはなく、知らず知らずのうちに現代的な視点で解釈してしまっているということ。これはなかなか根深い問題。

 そこでそのような問題意識を共有しつつ、具体的にどのようなテーマを誰にわりふるかを決める(その時点で会場はたんなる居酒屋となっている)。

 具体的には、プリントの裏の余白にボールペンで執筆予定者の名前をかきこみ、その人が論述可能なテーマを考えて埋めていくという作業をする。

 そして最後に

私「題名は今の仮称の題名だとあまりにダサイ」

先輩A「『モンゴル史の新地平』は?」

私「"新しい"という言葉はでた瞬間に古くみえる。『サルでもわかるモンゴル史』は?」

先輩A「却下。『モンゴル史の位相』は?」

私「あなたどこぞのシンポジウムでも位相って題名つけてたけど、その言葉好きなの? ありきたりなので却下。"スペクトル"とかカタカナは? 『モンゴル史研究のパースペクティブ』は?」

後輩C「うちの祖母でも解る題名にしてください。カタカナ語はうちの婆ちゃんに通じません」

私・先輩「(無視して)ま、仮称"パースペクティブ"で行こう!!」

そして、意味のない何度目かの乾杯をして、お開き。

責任者の先輩Bに書いていたメモを渡すと、

「あなたしか、読めないでしょ、この字」とぺっと返される。

専門書の宿命、事務の押し付け合い、すでに始まれり。
[ TB*0 | CO*2 ] page top
Copyright © 白雪姫と七人の小坊主達. all rights reserved. ページの先頭へ