白雪姫と七人の小坊主達
なまあたたかいフリチベ日記
DATE: 2007/06/27(水)   CATEGORY: 未分類
世界一精神的に豊かな難民たち
 チベットの支援団体KIKUが翻訳した海外ドキュメンタリー『ヒマラヤを越える子どもたち』(ここクリック)をご存じだろうか。

これは、中国領内(本来ならチベット本土なんだけどねー)にいるチベット人たちが、国境警備が手薄になる極寒期に、ダライラマのいるインドをめざして危険なヒマラヤ超えをするのをおったフィルムである。

 現在も続くチベット難民はその大半は子どもがしめる。

 去年、このような子どもばかりのキャラバンが中国の国境警備兵にみつかって、無惨に撃ち殺される図が、YouTubeに流れて大騒ぎになった。

 このことからもわかるように、この国境越えは途中でみつかったら悪くて銃殺、よくて強制送還である。

 無事でも、まだ小さい子どもは道中ずっと親を思って泣き続ける。親ももちろん断腸の思いで子どもを送り出しているのである。どうしてそのような思いまでして彼らはヒマラヤを越えるのであろうか。

 それは親が子どもをダライラマのもとで学ぶことが、自分のもとに留まるよりもよい人間に育つ、と判断するからである。

 ダラムサラ(チベット亡命政府所在地)にはこのような子どもたちを受け入れるチベット子ども村(TCV)がある。ここは全寮制で、インドの義務教育+チベット文化も身につけることができる。

 チベット文化、それは言わずもがなの仏教文化である。

 寮の共有スペースには仏画がかかっており、みなはそこで朝のおつとめをする。授業が始まる前もおつとめ。
 お手本は世界も認める大聖者ダライラマ。

 とくりゃあ、あなたもお子さんをいれたくなりますよね。

 で、わたしは、このチベット子ども村で使っているチベット文化学習用のテクスト(中学生用)を翻訳するという仕事をやっているのだが、ようやっと、ざっと訳が終わった。

 疲れた。

 「俗人の中学生向けかー、楽勝、楽勝」と思った私はバカだった。
 レベル高すぎなんだよ、ちべっと人。

 13才から存在論とか論理学とかやるなよ! 
 14才で普遍と特殊だし、
 15才で認識論だよ。

 ついていけないよう(泣)。

 論理学だけではない。
 仏教哲学もすごいのである。
 13才で釈迦伝、四聖諦、
 14才でインドの論師の伝記、チベット仏教の各宗派の哲学と実践のアウトライン
 15才でさわりとはいえ、心所、業論、説一切有部、唯識、中観を学ぶ。

 繰り返すが、これ俗人の子ども向けである。僧侶向けではないのである。

 カリキュラムを見る限りでは、日本の佛教系の大学の宗学の学科をでた人は、チベット人の中学生の知識に勝てない(おそらくはそれ以前に、仏教に対する姿勢その他のオールラウンドでまったく負け)。

 しかも、三年になるとダライラマ猊下の伝記をサイドリーダーに使うので、チベット近現代史とともに非暴力思想も自然とみにつく。

 この教育内容みると、親が「自分のもとで育つよりも、ダライラマのもとで育つ方が子どもがいい人間になる」と思う気持ちがなんとなくわかる。
 
 仏教はつまるところ、エゴの克服をとく、そのお手本がいきて彼らの目の前にいる。

 これ以上すばらしい教育はあるまい(プラス、ヒンドゥー語や英語という国際人に必須の学問も学べるという実利的な判断もある)。
 
 この学校はありがたいことに全世界からの寄付でなりたっている。チベット仏教のお寺を復興する、というと、自分がキリスト教徒だったり、ユダヤ教徒だったりするとやや抵抗があるが、学校を支援する、というのは抵抗が少ないせいか、難民社会の他の組織よりは資金はあるそうである。

 教育内容は仏教ばっちりだけどね!

 ここから巣立った子どもたちは、再び中国の親元に戻るものもあり、自分で奨学金をゲッとして世界にはばたくものもいる。いろいろな道を歩もうとも、ここで寝起きした何年かに「チベット人」としてのアイデンティティはしっかりと身に付いていることだろう。
 
 チベット人は仏教文化をまもるために、社会主義国が軍事占領した母国を去った。

 彼らに取って守るべきは、今も昔も、領土や財産や地位ではない。仏教文化である。

 だから、今も親は子どもをヒマラヤの向こうへ送り出すのだ。

 誰しもが認める素晴らしい文化があり、さらに、それを体現する立派なオトナがいる。

 チベット難民は、「よく世界一豊かな難民」と言われるが、これは精神的な意味でもそうだよな、と思う今日このごろなのであった。


[ TB*0 | CO*5 ] page top

COMMENT

 管理者にだけ表示を許可する
● …
セン | URL | 2007/06/28(木) 04:47 [EDIT]
僕の仏教知識は亡命チベット人中学生以下なのではないかと思いました。
その教科書、翻訳がお済みになったらいつか書店に並ぶのでしょうか?ぜひ手にとってみたいです。
仏青の勉強会のテキストとしてはいかがでしょうか。
● 豊かな難民
モモ@大東 | URL | 2007/06/28(木) 06:55 [EDIT]
心に平安と充足があれば貧困とはいわないのでしょうね。
享楽に走りがちな日本人やアメリカ人は
チベットの中学生から見れば哀れに見えるのではないでしょうか。
日本ではその時期、高校入試のためにひたすら使いもしない
英単語を覚えたり、年号を暗記したりする。
目的と手段を履き違えた受験教育に一石投じる感じですね。
お仕事がんばってください。
● 法王による子供たちへのスピーチ
Naomi | URL | 2007/06/28(木) 13:04 [EDIT]
先生こんにちは。書き込みは初めましてです。
『ヒマラヤを越える子供たち』をご紹介くださりありがとうございます。
DVD封入リーフレットに掲載した、TCVの子供たちへのスピーチですが、このたびダライ・ラマ法王日本代表部事務所のサイトの「法王メッセージ集」に載せていただきました。
http://www.tibethouse.jp/dalai_lama/message/051023_tcv.html
参考までにリンクさせていただきます。
それでは今後ともご研究活動頑張ってください。
● 仏教文化とその体現者たち
ハルミ | URL | 2007/07/02(月) 06:03 [EDIT]
仏教にはさまざまな文化体系がありますが、チベット仏教は思考のプロセスを大切にし、学問と実践のバランスにすぐれて素晴しいと思います。
先生をはじめ、尊敬できる研究者&実践者の方々が大勢いらっしゃるのも納得です。
愚息もTCVに留学させたくなりますね・・・。
教科書が発売されたら、親子共々勉強したいものです。
素晴しいお仕事に随喜いたしますv-22



イシハマ | URL | 2007/07/02(月) 10:51 [EDIT]
>センくん
まだ荒訳が終わった段階なので、いつかは確定してません。わかり次第報告しますね。

>モモさん
知識をつめこむ教育もいちがいには否定できません。ただ、それオンリーというのがまずい。知識つめこみ教育も、人格教育も、特殊技能教育が、すべてあるのが理想で、子どもはすきなものを選べる社会が理想的だと思います。

>Naomiさん
スピーチのご教示ありがとうございます。このスピーチ、一部を去年の十月くらいに、ここでとりあげたような気がします。

>ハルミさん
何か私はいい加減な人間なのに、ハルミさんのようなことをおっしゃってくださる方がいると、「がんばんなきゃなー」と思います。

TRACK BACK
TB*URL
Copyright © 白雪姫と七人の小坊主達. all rights reserved. ページの先頭へ