白雪姫と七人の小坊主達
なまあたたかいフリチベ日記
DATE: 2008/03/18(火)   CATEGORY: 未分類
観音菩薩ダライラマ
 昨日の三大紙朝刊の一面は見事にゲルワリンポチェ(ダライラマ猊下の尊称)の顔がならんだ。読売と毎日は文字通り一面トップに大写し、かの朝日新聞ですら一面の下の方のすみにダライラマ猊下の小さなお顔を配しており、チベットをめぐる情勢がいかに深刻かを示している。

 かつては年に一~二度しか尊顔を拝することもかなわなかったダライラマ猊下が、このような粗末に扱われる可能性のある新聞にのっているというのも「歴史上もっとも著名なダライラマ」にして「悲劇のダライラマ」であるゆえんである。

 ダライラマを敬愛する人々は、ダライラマ猊下が、このたびのチベット人の「暴力」とそれによる死者と、千倍返しの中国政府の「武力弾圧」にどれほど心を痛めているかを察して、みな暗い気持ちになっている。

 中国当局はダライラマ猊下が背後にいるようなことを言っているが、言うまでもなく全くの中傷である。

 ダライラマ猊下は、中国政府の政策に対する批判は行うものの、チベット人に対してつねに自重を説いてきており、その言説はお若い頃からゆるぎない。

 1949年に新中国が成立した時、すぐにチベット「解放」を宣言し、1950年の10月には、朝鮮半島へは北朝鮮に味方する義勇軍が送り込まれ、同月に東チベットへの解放軍が送り込まれた。以後、解放軍の進駐過程、土地改革の過程、文化大革命の嵐の最中、チベットの僧院は徹底的に破壊され、僧侶は虐殺され、生き残りは亡命するか還俗するかの道を選ばされ、チベット仏教は壊滅状態になった。

 1959年にインドに亡命したダライラマ猊下は、自らの守るべき民がこのような悲惨な目にあっている時でも、仏教の教えに基づき、「暴力はいけない、武力による報復はいけない」と説き続けていた。

 このようなダライラマ猊下のお言葉に対して、俗人の知識人の中には、このような弱腰では祖国を取り戻すことはできない、と批判するようなグループもあり、70年代に、パレスチナが国連で議席を得ると、「国家をこれからつくろうというパレスチナですら国連に議席があるのに、国家であったチベットが国連で何らの地位も得られないのは、ダライラマ猊下の弱腰政策にある」という批判が噴出した。

 それでも、猊下は「暴力」はいけない、と説き続けた。猊下はチベット人に「仏教徒である」(人である)というアイデンティティを失うことは、国を失うことよりも悲しいことであると見抜いていたのだ。

 1989年のチベット騒乱の時も、直接の契機は、ダライラマ猊下がチベット独立をチベット自治に後退させたからである。

 怒り、暴力をふるう人々の気持ちもわからないことはない。尊敬する師僧を殺され、家も財産も奪われ、祖国すら失い浪々の身となった先の見えない状況で「心の平和を保て」「殴られても殴り返すな」(実際には殺されても・・・なんだけどね)と言われても、観音菩薩の化身ダライラマには可能であっても、凡夫には難しいものだ。

 でも、この貧しても鈍しないダライラマ猊下の高潔さに、先進国の知識人は打ちのめされた。かの喜劇王チャップリンがガンディーの高潔さにうちのめされてファンとなったように、リチャード・ギアも、イギリスのチャールズ皇太子も、日本の鳩山民衆党党首も(笑)、世界中のセレブが、ダライラマ猊下を生み出したこの精神文明を守るために、何かしたい、と思ったのである。

 
 結果、チベットは大国中国を相手にして、国をうしなって半世紀以上を過ぎた今もなおそのプレザンスを失なわないですんでいる。ダライラマ猊下の行動は総体的に見れば正しかったのである。

 最近の一連の事件によってチベット問題に興味をもった方は、ダライラマ猊下が、どうしてもっと過激な声明をださないのか、と不審の念を抱いているようだが、ダライラマ猊下は中国政府がもっとひどい虐殺や破壊を行っていた60年代ですら、非暴力を説いていたのである。猊下の姿勢は、どこぞの国の政治家の言動や御用学者の研究やコメンテーターの発言とは異なり、とにかく一貫してゆるぎない。

 ダライラマ猊下は政治家である前にまず仏教徒なのである。

 仏教をまもることこそが彼にとって一番の使命なのである。

 仏教においては、まず、何かに対して強い怒りを持つこと、何かにたいして強い執着を持つこと、の両方を戒める。とらわれた心こそが苦しみのはじまりだからである。だから、彼はもちろん中国政府の虐殺を非難するし、チベット人の「暴動」を認めることもない。

 しかし、一方でダライラマ猊下は愛の菩薩観音菩薩の化身である。このアイデンティティにおいては猊下はチベットの民をこよなく愛している。

 チベット人は観音菩薩の祝福によって生まれ、7世紀の初代国王ソンツェンガムポ王はダライラマの前世者である。彼は転生を繰り返してチベットの民を守ってきた(と17世紀以後信じられている。)。観音菩薩としての猊下は、殺されていく民を見て、とれほど心を痛めておられるであろうか。

 中国ももう少し考えてみるべきである。チベット人は軍事力にも社会主義思想にも従わない。チベット文明はこれまで、他者をとりこにすることはあっても、自分が他者の精神文明に同化した例は一度もないのだ。


 17世紀以後、チベットにはご多分に多くの宣教師が布教に訪れたが、彼らは布教の自由を得ていたにも拘わらず、少しも信者を増やすことはできなかった。それだけチベット仏教思想は完成度が高いのである。

 ましてや、社会主義のような底のあさいガサツな思想で、ソフィスティヶートされたダライラマの仏教思想(中観帰謬論証派)を洗脳することは不可能なのである。

 チベット人は軍隊でいくら脅しても、道路しいても、青蔵鉄道とおしても、そんなもんで「ははー」と感心するような田舎者ではないのである。

 彼らは、ただ、この完成度の高い普遍的な精神文明を自分たちの生まれた地で自由に学び修行する、その自由をくれ、と言っているだけなのである。

 リチャード・ギアはチベット支援についてこう語っている。「我々がチベットを救おうという時、我々自身がよくなる可能性も同時に救っているのである。」

 
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COMMENT

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guifu | URL | 2008/03/18(火) 17:41 [EDIT]
初めまして。とにかくいてもたってもいられなくてリンクを貼らせていただきました。
先生の著作はいくつか読ませていただいております。
とにかく事態が好転することを祈るのみです。

はぶ | URL | 2008/03/18(火) 17:47 [EDIT]
はじめまして。
89年と悲惨な状況であることに変わりありませんが、今回は中国政府がチベットの袋小路に迷い込んでしまった事に気がついた__かな?と云う気がします。北京でも小規模ながら学生デモがあったそうです。なんとなく「天安門」を思い出します。

ササキ | URL | 2008/03/18(火) 22:36 [EDIT]
はじめまして。
今回の事態をうけて、久しぶりにチベット関係サイトを巡っていますが、当サイトの文章がとてもすばらしいとおもいました。
ぜひ、リンクさせてください。
私もダライラマ猊下の悲しみをおもうと、
胸が痛みます。


イシハマ | URL | 2008/03/18(火) 23:29 [EDIT]
>guifuさん
ぶろく拝見しました。いろいろご苦労されているようで最後の叫びが胸にしみました。

>はぶさん
いろいろな情報を告知してくださってありがとうございます。確かに中国政府はものすごい恥をさらしました。でも、それがチベット人の命と引き替えなのが悲しい・・・

>ササキさん、
リンクありがとうございます。中国にくしというだけで、チベット問題を語る人が多い中で、ダライラマ猊下の求めていることに世間があまりにも無知ですよね。ありがとうございました。

遊牧民 | URL | 2008/03/19(水) 08:17 [EDIT]
はじめまして。いつも膝を叩きながら読ませていただいております。
物心ついたときから、少なからず「チベット」との縁を感じながら生きてきた者の一人です。想像力(豊かな精神世界)の欠落したガサツ(笑)な漢民族には、死んだ虫に向かって手を合わせる小さな子供を理解することは、難易度高すぎます。観音菩薩はそういうレベルにいる人たちをも含めてあたたかく見守られる存在。一面トップの写真を拝見しているうちに自然に涙が流れてきました。[彼ら]の自滅をただひたすら待つのみです。イシハマ殿は私の理論的支えです。お体気をつけて今後とも、ファイティン!
● ありがとうございます
hyutan | URL | 2008/03/19(水) 16:09 [EDIT]
はじめまして。
ダライラマ猊下の「引退する」という言葉を捉えかねていました。
さらなる「転生」つまり「死」を語っておられたのですね。
大悲と賛嘆する前に胸が塞がれる思いがします。

自分にできることを考えたいと思います。
● リンク
ばなな猫 | URL | 2008/03/19(水) 19:12 [EDIT]
お久しぶりです。カトマンズのもも(元アムネスティ・チベット・チーム)です。いつも読ませてもらっております。このページで、今までこらえていた涙がわらわらと流れてしまいました。拙ブログのスキン部分にリンク張らせていただきました。

コロ | URL | 2008/03/20(木) 00:01 [EDIT]
初めまして。
もし自分がチベットの民なら、相手が自分のペースを圧政や威圧で押しつけ続けてくるのに、非暴力を貫けるかな・・・? でも、そうでありたい。非暴力という生き方はすぐにはベストの結果を生まないかもだけども、ベストの生き方なんだと思いたい。と思いながら、心が揺れてもやもやとしていました。
この数日のダライラマ猊下の会見のニュースをみて、今日
白雪姫さんの文章を読んだら、なんだか自分の胸にしみました。それを伝えたかったので書きました。
平和を祈ることしか、私は無力で出来てないのですが・・・

マリー | URL | 2008/03/20(木) 03:25 [EDIT]
初めまして。
ダライラマに協力できること、小さいながらもたくさんありますよね。世界中の小さな力が集まって、大きな流れが作れるといいかなと。

あるく | URL | 2008/03/20(木) 08:42 [EDIT]
>「仏教徒である」(人である)というアイデンティティを失うことは、国を失うことよりも悲しいことであると見抜いていたのだ。

仏陀の説かれた非常に倫理的な思想の根幹は、人としてのあり方ですから、それを放棄して野蛮な連中と同じ境涯まで落ちることは避けたいです。

>社会主義のような底のあさいガサツな思想で、ソフィスティヶートされたダライラマの仏教思想(中観帰謬論証派)を洗脳することは不可能

チベット仏教の深さ、民衆への浸透力に驚愕しました。
「聖ツォンカパ伝」昨日、入手できました。
手に取ったときの、鳥肌が立ったのはなんだったのか?
読めば、その理由が解るでしょう。

イシハマ | URL | 2008/03/20(木) 09:22 [EDIT]
>遊牧民さん
このチベットの非暴力の精神文明が失われないように、チベット問題をいろいろなところで話してくださると嬉しいです。

>hyutanさん
あの退位発言は、多くのチベット人がふるえあがったことと思います。しかし、蜂起するチベット人の気持ちもわかるし、みな複雑です。

>ももさん
ご無沙汰しております。現地に近い分、痛みもなまなましく感じられることと思います。現地で行われていることをできるだけ日本にも発信していただけると嬉しいです。

>ころさん
タライラマ猊下は「ダライラマを批判して中国の暴力から逃れられルならどうぞ私を批判してください」、といってます。人の弱さにもやさしい方゛てす。

>マリーさん
そうですね。世界中の人の声が集まれば、何かがかわると思います。インドもそうやって独立しましたし、アパルトヘイトもそうやって終わりました。

>あるくさん、
ありがとうございました。あれは歴史書なので、思想内容などについてはダライラマの仏教入門とかをご覧になるといいですよ。
● 管理人のみ閲覧できます
| | 2008/03/20(木) 12:06 [EDIT]
このコメントは管理人のみ閲覧できます

guifu | URL | 2008/03/20(木) 13:07 [EDIT]
うわー、まさか私のブログに先生からコメントいただけるなんて思っていませんでした! 感激しております。
HPを熟読させていただき、チベット関連の書籍を買うたびに(先生の著作はもちろんですが)、先生の解説がついていることが多く、私の中で「師匠」と仰いでおりました(笑)。
もう一度ラサに行きたい! ギャンツェ、シガツェにも足を延ばしたい、と思っていた矢先の今回の事件・・・。哀しすぎます。
これからもぜひ色々と勉強させてください。

チコラ | URL | 2008/03/20(木) 15:17 [EDIT]
10年以上前、先生の授業でチベット仏教について学んだ者です。
一昨年、初めてダライラマ猊下のお話を伺う機会があり、圧倒的なやさしさのオーラに涙が出ました。
今回の件を傘に、中共を倒せと言っている人たちが多いのは、とても辛いです。
それでは中国側がやっていることと何も変わらないのに。
チベットを本気で支援したいと思うなら、まず、猊下のおっしゃることに耳を傾けてほしいです。
週末、日本でもデモが行われるようですが、ラサ現地にいらっしゃる日本人の方の日記では
中国人はメンツを重んじるから、デモが広がり、オリンピックのボイコット運動につながり
オリンピックがうまくいかなくなったときの仕返しがこわい、とおっしゃっていました。
それを考えると、デモに参加すべきかどうかも悩みどころです。
憎しみの連鎖では何も解決しないんですよね。
● お返事に震えました
コロ | URL | 2008/03/20(木) 22:07 [EDIT]
>ころさん
タライラマ猊下は「ダライラマを批判して中国の暴力から逃れられルならどうぞ私を批判してください」、といってます。人の弱さにもやさしい方゛てす。
と、書き込みにお返事頂き、うぉーっ・・・言葉がなくなりました。胸が熱いです。
自分のおもってるこうなったらいいなーというのよりさらに崇高な感じがしました。チベットの仏教をよく知らないので、今からでもダライラマ猊下の教えに触れてみたい。

ジーマ | URL | 2008/03/21(金) 23:57 [EDIT]
お久しぶりです。
チベットが久しぶりに取り上げられたと思ったら。中華人民共和国建国後の大侵略に似た虐殺。

中国の横暴っぷりは相変わらずですね。
遊牧民王朝だったらもう少し安定的に統治したんでしょうか。
もはや遊牧民なんてほとんどいませんけど。

久しぶりの石濱節みました。
仕事してるとみんな無関心の世界です…
甘粛省興味ありますね。

マーハー | URL | 2008/03/22(土) 09:50 [EDIT]
「Free Tibet」
チベットを、自由にものが言えて、生きていける普通の場所にしてほしい、というチベット人の望みを、中国政府が弊害と捉え、かれらの命を摘んでまでも抑圧する様はなんとも悲しいです。

中国は過去の戦争で侵略や虐殺を受け、日本の七三一部隊には「丸太」と称され生体実験や細菌研究の材料にされた中国人は当時、まさに人としてのアイデンティティを奪われていたと思います。
それを和平に活かせられないのが残念です。

>猊下はチベット人に「仏教徒である」(人である)というアイデンティティを失うことは、国を失うことよりも悲しいことであると見抜いていたのだ。

国家は人ありきだからとてもこころに響きます。
なかなか今のわたしたちには知覚できないことなのかも知れませんが、わたしたちにとってもとても意義の深いことだと思います。

原田義昭 | URL | 2008/03/24(月) 14:00 [EDIT]
「チベット暴動その後」をアップしました。ご一読賜れば幸いに存じます。

sizuku | URL | 2008/03/25(火) 18:22 [EDIT]
「人智で招いたものは、人智で超えなければならない」

そう言ったダライラマ14世の言葉が

この出来事でふと、頭を過りました。

一日も早い、安定が望まれますね。

イシハマ | URL | 2008/03/26(水) 00:25 [EDIT]
>guifuさん
こちらこそ、いろいろ拙著を読んでくださってありがとうございます。

>仕返しがこわい
今の時点でも中国のメンツは傷つき、仕返しもされているといえましょう。言っててむなしい。

>コロさん
あれだけの苦労をされながら、まったくマイナスな感情をもたない。その猊下の魅力に世界中の人々はとりこになっているのです。

>ジーマくん
お久しぶり。普通に仕事して日常をまわしていく人たちがいるから日本は平和なのです。お仕事がんばってね。

>マーハーさん
そう、イスラエルのユダヤ人もそうなんだけど、自分たちがひどい目にあったからといって、同じことをより弱い立場の人に対してやっていくのって本当にむなしい、誰一人幸せになれない負の連鎖。

>原田さん
チベット問題に対する理解を議員さんたちの中にも広めていただけると嬉しいです。む

>sizukuさん
「人が作り出した者は、人がやめることができる」、確かに猊下はそういう話をどこかでされていました。思い出させてくださってありがとうございます。



● 管理人のみ閲覧できます
| | 2008/04/02(水) 02:57 [EDIT]
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