白雪姫と七人の小坊主達
なまあたたかいフリチベ日記
DATE: 2009/12/06(日)   CATEGORY: 未分類
パニック映画とチベット
2012ポスター
最近みた映画『2012』の映画評です。あらすじがわかっちゃうのでこれから見る方は注意してね。

マヤの暦によると世界は定期的に破滅を繰り返し、中でも2012年は太陽の爆発によって世界が破滅する年とされる。本作はこのマヤの暦が予言していた破滅が2012年におきたことによる人類のサバイバルを描いたパニック映画である。

 2009年、インドの若い科学が太陽から発せられるニュートリノによって地球が電子レンジの中に置かれたように熱せられていることを発見しこのままでいくと地殻は崩壊し、世界が破滅することが判明する。この情報を得た各国首脳は協力して来るべき破滅の日の
後も文明を生き延びさせるために極秘裏に計画をたちあげる。

 その計画とは、チベットの谷において現代版ノアの方舟を造るというプロジェクトであった。この方舟には聖書の箱船同様に様々な種の動物が番で乗せられて、科学者、技術者、などの新しい世界において文明を維持していく上で必要な人材、プラスこのプロジェクトのパトロンである世界中の大金持ちが乗船を許されることとなった。

 つまり、人類の大多数は死に、それどころかこの箱船を建造した民も、それ以外の人類も終末の日に箱船にのることはできないのである。そのため、箱船に乗れない人がパニックをおこして計画が挫折しないように、世界の終末は固く伏せられ、世界のごくトップレベルの人のみしか知ることはなく、秘密を漏らそうとしたものはたとえルーブル美術館の館長であっても「抹殺」される。

 表面的な映画の見所はSFXを駆使して描かれる世界の崩壊のすがたと、その中をつねに紙一重でかいくぐって逃げ惑う主人公のジャクソン・ファミリーのサバイバルである。

 しかし、この映画のテーマはもっと深い。それは、ダニー・グロバー演じる最後のアメリカ大統領が津波で運ばれてきた空母J.Fケネディに押しつぶされて死んだり、人類の命運をかけた箱船にアメリカ大統領専用機エアフォース・ワンがつっこんできて人々の命を危うくするというシーンに象徴されているように、現在の文明に対する批判である。

 そして、人類がただ種として生き延びるのだけではなく、「人として」生き延びなければいけないというメッセージが何度も発せられる。そして、この深いテーマを紡ぎ出すために重要な役回りを果たすのがチベット人である。

 チベット人がどのような役割を果たすかを述べる前に、主人公のジャクソン家について簡単に紹介する。ジョン・キューザック演じるジャクソン家の父親は、売れない小説家である。二人の子供の親権を離婚した妻に取られていることから、いい父親でもないことが分かる。小説家では食べられないのでロシア人富豪の運転手をしている。つまり、この父親には箱船にのれるような才能も、経済力もない、市井の普通のだめお父さんなのである。しかし、ジャクソンは子供とともに生き残るために、壮絶な戦いをし、いろいろな運にも助けられてチベットの谷間に建造されている方舟までたどりつく。

 ジャクソン家の運とは、まず、X-fileのローン・ガンメンを彷彿とさせるヒッピーくずれのチャーリーに出会い、世界の終末と政府の陰謀についての知識を得る。その時は半信半疑であったが、雇い主のロシア人富豪一家がアメリカから逃げ出すのをみて、チャーリーの言うことが真実であることを確信する。

 ジャクソンは、間一髪で崩壊するロスアンジェルスから子供たちを救いだし双発機で死地を脱する。そして、ラスベガスでロシア人富豪と合流して、ロシアの輸送機でロシア人のサバイバル能力に助けられながら箱船があるチベットの谷までいつきく。

 しかし、一人あたま10億ユーロの乗船券はロシア富豪に買えてもジャクソン家には無理。彼らを拾いに来た中華人民共和国の解放軍はロシア人富豪と二人の子供はつれていって、ジャクソン一家を放置する。

 ヒマラヤの山中に放置された彼らを救ったのは、他でもないチベット人であった。チベット人のテンジンは自分たちが作っているのが破滅の時をのりきるための船であることに気づき、僧であった弟ニマと祖母を箱船の動物居住区に潜り込ませて救う計画を立てていた。ジャクソン一家はこのテンジンたちに拾われたのである。

 テンジンははじめジャクソン親子を足手まといとして見捨てていこうとするが、テンジンの祖母は「わたしたちの奉じる仏教の教えではあらゆる命あるものを救えといっている」という一言で計画に加えられる。お金をもっているかいないかで避難民を選別する中国軍人に対して、チベット人は通りすがりのアメリカ人を慈悲によって救いあげるのである。制作者が両文化に対比的な構造を持たせていてることは明かであろう。

 津波はいよいよヒマラヤにまで達し、アメリカの大統領補佐官はまだ多くの人が乗船を終えていないうちに、箱船のゲートをしめようとする。

 パニックをおこす人々をブリッジから見ていたキウェテル・イジョフォー演じる若い黒人の科学者は「もし我々がここで彼らを見放したなら、我々は子孫の代にこの日のことをどのように語り伝えるのか。人が助け合うことをやめたら人間性を失うことになる」とヒューマニズムを説く大演説をし、各国首脳もそれに賛成して再びゲートは開く。
 
 箱船に乗船を許可されているのは、才能や特殊技能を持つ人、あるいは経済力、あとはコンピューターが判断した遺伝子をもつ人々である。つまり、彼らを選別したのは人知である。一方、運によって乗船に導かれたジャクソン一家は、ある意味人知を超えた何かによって選ばれた家族ともいえる。その最後の運を授けたのがチベット人のテンジン一家であることは、この計画を推進しているアメリカ大統領補佐官が物質主義の側の代表だとすると、チベット人がそれを超越する視点を象徴していると言える。

 ニマの師僧はこの世界の破滅を静かに受け入れて津波にのまれていく。彼は最期に僧院から終末の鐘をならす。『2012』のポスターは崩壊していく世界をヒマラヤの頂にたつ一人のチベット僧が眺める後ろ姿を合わせた構図である。もみくちゃになる下界の世界に対してチベット文化の不変性を対比させることをねらったものであろう。

 師僧とニマの囲む茶席が日本風であったり、師僧が終末の時につく鐘が日本の梵鐘であったり、おかしな点も多々あるが、他者を自分と同様に思いやること、この精神をチベット人の口から語らせていることは、制作者はかろうじていチベット文化のエッセンスを理解していることは言えよう。

 人種に対してレッテルをはることをきらうハリウッドはもちろん、チベットと中国を対立させるような露骨な演出は行っていない。そのため報道によると、中国ではこの映画を見た半分は〔方舟をつくる労働力にされてしかものせてもらえない中国人(彼らは中国人というが実際はチベット人)は〕「バカにされている」と思い、半分は方舟を世界の滅亡の日=納期にあわせてつくった中国人をほめたたえる映画だと思ったという。
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COMMENT

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さわむら | URL | 2009/12/07(月) 09:07 [EDIT]
昔の「忍者」のように、今は、チベットを出せば数字が取れますよね。
正義の館長擁したルーブル美術館は、給料UPに向けストライキ閉館中です。
● 管理人のみ閲覧できます
| | 2009/12/07(月) 10:07 [EDIT]
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カルマ・フォーチュン(♪♪) | URL | 2009/12/08(火) 12:37 [EDIT]
さりげなく、チベットを引き合いに出すなんて、いいね。
おそらく、その辺は、誰も、わかんないと思うよ。
何でチベットなのか。なんで、チャイナなのか。
だって、映画紹介の番組でも、そんな話、ドコも扱わず、ストーリーの紹介は、破滅だけを描いているようにしか見えなかったから。
わからない人は、最後までそこの所は気がついてないと思うよ。

シラユキ | URL | 2009/12/09(水) 09:11 [EDIT]
>さわむらくん
たしかに最近「ニンジャ」でないよねー。前はフランスでも亀ニンジャとかいたもんねー。

>Wさん
このたびはご愁傷様でした。

>カルマさん
中国人の反応がまったく二つに割れていて、ふたつとも制作者の意図と違うところで反応しているのがおかしいですよね。

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