白雪姫と七人の小坊主達
なまあたたかいフリチベ日記
DATE: 2011/02/11(金)   CATEGORY: 未分類
二人のカルマパ17世
 1月29日にカルマパ17世(ウルゲンティンレーの方)が滞在するギュトー僧院をインドの警察が捜索したというニュースが流れた。大量の外貨を保持することがインドの為替法に抵触したとの理由からである。インドがどのような為替法をもっているか知らないので、ここでインド警察のやることをすぐに非難したくはないが、今回の手入れはかなり難癖つけてるっぽい。国籍をもたないチベット難民が土地を購入したり、基金を創設したり、ということをインドで行うためには、インド社会の非効率性とインドの法律がインド国籍重視もあいまってたくさんの困難があるからね。

 そして、何よりも許し難いのが、あろうことか彼を「中国のスパイ」呼ばわりするインドのメディアが現れたことだ。根拠はカルマパの所持金の中に中国元が混じっていたことらしい。今本土チベットは中国に支配されているんだから、彼らが布施する時は中国元でだってするだろうよ。

 大金については、去年の十二月、第一世カルマパが誕生して900年目を祝うためにブッダガヤでカルマパ祭りが行われた。この時に山ほど彼を慕う信者たちが集まったので、そりゃ米ドルもユーロも集まるだろう。それは信者が喜んで出しているもので、汚い金ではない。うちの院生Mだってギリギリまでカルマパに会いにブッダガヤいく~、とうなされていたし。

 で、何よりも呆れたのが、このインドのメディアの憶測を読売・産経・朝日がそのまま日本語にして流したこと。中でも香ばしかった読売新聞の記事がこれ。「活仏」表記をしている時点で「あーあ」で、その内容はもっとヒドイ。

 カルマパ活仏、中国スパイ説…資金提供や接触?(2011年2月3日09時16分 読売新聞)

 【ニューデリー=新居益】チベット仏教カギュー派の最高活仏カルマパ17世(25)が、出所不明の大量の現金を保有していたとして、インド当局が捜査に乗り出した。
 2000年に中国からインドに逃れたカルマパが、実は中国当局から支援を受け続けていたのではないかという疑念もあり、チベット亡命政府は衝撃を受けている。
 カルマパは、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(75)の後継体制でも中心的役割を果たすとみられる高僧。警察は1月27日、カルマパが 滞在するインド北部ダラムサラの僧院を家宅捜索し、人民元や日本円を含む現金約1億5000万円相当を発見した。2日までに側近5人が逮捕され、カルマパ 本人も事情聴取を受けた。脱税や外国為替法違反の疑いによるものだが、警察は、特に現金の出所が中国だったかどうかを厳しく追及している。
 インド紙デカン・クロニクル(電子版)は当局者の話として、カルマパ側近はダラムサラ周辺で他人名義により約400か所の土地を購入していたほ か、「中国友好文化センター」の建設を計画していたと報じた。また、インディアン・エクスプレス紙によると、カルマパが09年、香港で中国政府当局者と接 触したことが確認されている。


 この報道がでた瞬間、チベサポのツイッターでは、「カルマパ17世は2008年のアメリカ行き以外出国が許されてないよ! 2009年も、そしてその翌年も香港いったのはもう一人のカルマパだよ!!」と呆れたツイートがとびかった。このインディアン・エキスプレス紙は、カルマパが二人いるの知らないんだ。

 日本人の大半は忘れているだろうからいうけど、カルマパ16世がなくなった時、カギュ派の高僧シャマル、ゲルツァプ、タイシトゥ、ジャムゴンの四人が17世の探索を行った。タイシトゥがカルマパ16世からもらった護符の中に前代の残した書き付けを見つけそれに基づいてカルマパ17世ウルゲンティンレーが選ばれた。しかし、シャマルのみはこの書き付けを贋作とし、もう一人のカルマパ、ターイェードルジェをかついでいる。

 その結果、カルマパ16世の座であったシッキムのルムテク僧院をどちらが継ぐかで法廷闘争が行われている。香港や台湾で法を説いているのは、このシャマルが押しているターイェーさんの方。

 これ有名な話しじゃないですか。

 で、ターイェーの後見人のシャマルは、因縁の人。

 18世紀後半にシャマル(今のシャマルは13世)が10世(1742-1792)だった時、パンチェンラマ三世の遺産をめぐる争いに不満をもち、ネパールのグルカ王朝にいき、グルカがチベットに攻めてくるきっかけをつくった。そのおかげでシャマルの転生はチベット政府により長い間公認が禁止されていたが、現ダライラマはご存じの通りお優しい方なので、シャマルの転生を解禁されたのだ。で、解禁されたとたんに「またかよ」とみな思ったとか思わないとか(笑)。

 ちなみに、ウルゲンティンレーの評判がおちて一番得をするのはターイェードルジェとシャマルだったりする(今のところ逆効果だけど)。

 ルムテクはインドが滅ぼしたチベット系王国シッキムにたつため、インド政府にとってカルマパ問題は国境問題でもある。中国はインドがシッキムを滅ぼしたあとも、この国を独立国として表示しつづけていた。それに対して、インドも中国がチベットを滅ぼしたあと、長い間チベットを独立国と表示していた。

 なので、大体がこんな筋の悪い話しが背景がある情報に飛びつく日本のマスコミもどうかと思う。

 ちなみに、CNNはこのニュースはスルー、BBCはスパイ説を書かず、ただインド警察の手入れのみを報道。AP通信はインド警察の手入れと「カルマパの事務所がカルマパのスパイ説を否定した」という文脈でのみスパイ説を掲載したことを考えると、〔インドと〕日本のマスコミの取材力と分析力のなさが光り輝く
 
 ちなみに、ウルゲンティンレーの方のカルマパ17世は、2000年初頭に中国から亡命した後にダライラマのお膝もとで生長しており、その父子のような仲の良さが評判になっているので、広範なチベット人の人気を得ている。そのため今回のインド警察の行動に対して、カルマパ支持するためのキャンドルナイトが行われ、亡命政府もカルマパをまもる方向で迅速に動いている。

 過去に、一人の人間が複数に転生するなんて何度もあるのだから(笑)、二人のカルマパを「身体と心の化身が分かれて生まれちゃったわ」とかいって、二人で協力してカギュ派のカンバンはればいいのにな、と思う。

 というわけで、日本のマスコミもメディア・リテラシーをちゃんとして、まず「活仏」表記やめて、さっさと誤報を訂正しましょう。

 あと、誤報を流さなかった毎日新聞はエライ!

後日談

カルマパの蓄財「側近の過失」=中国スパイ疑惑はシロ―インド当局

時事通信 2月17日(木)17時44分配信
 【ニューデリー時事】チベット仏教指導者カルマパ17世が居住するインド北部ダラムサラ近郊の寺院で警察が多額の現金を押収、不正蓄財の疑いで捜査している問題で、PTI通信は16日、カルマパ側近の過失により不適正な資金管理が行われていたとインド当局が結論づけたと報じた。不正蓄財疑惑を引き金に、カルマパが中国のスパイであるとの説も流れたが、インド当局は事実上、シロと認定した形だ。
 寺院内で見つかったのは、約1億3800万円相当の米ドルや中国人民元などの現金。1999年に中国を脱出したカルマパに同国政府がひそかに資金援助し、インド側のチベット仏教勢力への影響力行使を画策したとの見方が浮上した。これに対し中国は、カルマパは自国のスパイではないと全面否定し、中印間に波風が立っていた。 
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| | 2011/02/14(月) 20:11 [EDIT]
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mimaco | URL | 2011/02/15(火) 08:47 [EDIT]
>日本のマスコミの取材力と分析力のなさが光り輝く
他人の言説を鵜呑みにする人が記事を書き、それがマスコミであるというだけで鵜呑みにする人が読む、という図式でことが進む世の中になると、恐ろしい未来が待っていそうな気が…。
この件に限らず、世界情勢の新聞記事を読んでいると、素人目にすら「?これって、どこまで取材して書いてるの?誰かの意見に偏りすぎていない?」と思うことが多々あります。(あ、取材はせずに配信されたソースを翻訳しただけか)
だいたい何かの手違いがあって為替法で疑われたとして、カルマパほどの高僧で世界中に信者があれば、受けたお布施が併せて1億円くらいあったって何ら不思議はないと思います。個人の資産でもないですしね。それより、(失礼ながら)日本の仏教団体のほうがよっぽど金満体質だったりしませんか。なんだかインドや日本の宗教家の多くが利益優先主義なため、全ての宗教家を見る目も曇ってしまっているようで、悲しいですね。

Hisano | URL | 2011/02/15(火) 11:09 [EDIT]
情報元の信憑性を全く調べる事無く、堂々と(?)掲載するマスコミって一体何なんでしょうか?
これでは、井戸端会議や噂話の類と変わりがないように思えます。それにしても、お布施として世界各国の通貨が集まっていたにも拘わらず、人民元があった事とスパイ説を結びつける事自体?????と思うと思うのですが…




シラユキ | URL | 2011/02/15(火) 18:45 [EDIT]
>モモさん
毎日新聞は余計な雑音が比較的少なくていい新聞です。販売力をもっと強化したらもっと読まれると思うのですが。

>mimacoさん
ことチベット問題に関して過去半世紀、mimacoさんがおっしゃる通りの状態だったんですよ。今はネットとかあるので多少はこうして反論もできますが、紙媒体しか読まない人は終わりですよね。

>Hisanoさん
その件に精通している人が取材をしているわけでなく、大概が、社内の事情でこの部にいます、みたいな感じの人が記事書いているので誤報が増えるのです。


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