白雪姫と七人の小坊主達
なまあたたかいフリチベ日記
DATE: 2011/02/21(月)   CATEGORY: 未分類
22年目のリプリント
 一年最大の祭り、入試がオワタ。毎年のことながら疲れた。

で、今日は、とある出版社さんと打ち合わせ。

東欧民主化がおきたあの1989年に、ダンナと私は(財)東洋文庫から『梵・蔵・漢 翻訳名義大集』(マハーヴュットパティ)をだした。

 さくっと説明すると、この翻訳名義大集とは、9世紀の古代チベット時代にインドの仏典をチベット語に翻訳する際に、翻訳者によっていろいろ訳が異なったりして問題になった。そこで、できたのが、このマハーヴュットパティ。これは仏教の基本的な単語、表現法を、カテゴリーごとにまとめて、サンスクリット語とチベット語の対訳をつけたもの。

 これはチベットの教科書にのっている程有名な話し。

 その後、清朝に入って、モンゴル僧が勉強のためにここにモンゴル語をつけていった。

 かくして、サンスクリット、チベット、モンゴルのトリリンガル辞書が誕生したのである。

簡単な例を挙げると
〔サンスクリット語〕bhagavAn
〔チベット語〕bcom ldan 'das
〔モンゴル語〕ilajU tegUs nOgcigsen
〔漢語〕世尊
 こんな感じ。

 短いものは一項目一単語から長い項目は文章まで、とにかく9565の項目を写本の数だけ(北京版、ナルタン版、デルゲ版、チョーネ版、モンゴル・テンギュル版、モンゴル・レニングラード版)校訂し、つまりは9565項目×6回みなおし作業をいれると8回くらい9565項目を見たので、廃人になりそーだった。若かったからできたこと。

でも、おかげでモンゴル語の直訳仏教用語をみると、すぐに元のチベット語が分かり、単語の意味が分かるから文章がよめるようになった。モンゴル研究者の大半が社会主義政権の影響で、仏教が盛んな次第の歴史文献が正確によめなくなっている中、モンゴル仏教関連文献が読めるという貴重なスペックを持つこととなった(笑)。

 しかしいい仕事だったのに半官半民の財団法人から出版したので、その後うもれた。Alice Sarkoziという研究者がモンゴル語部分だけをドイツの著名な専門書の出版社オットー・ハラソイッツから出したりしたけど、こっちの知名度はイマイチ・・・。

 しかし、今年に入って突然G出版社のK社長から連絡があり、「この翻訳名義大集に漢訳つけて、索引つけて再刊したい」という申し出があった。もちろん出版助成金がとれることが前提だが、そもそもこんな22年前にでたものを彼が知っていたことに感動した。

 彼曰く「いいものは着実に時間をかけて売れていく。海外でも売る」ということで、序文などは英語にして海外で売ること前提であるという。

 念願の翻訳名義大集のグローバル・デビュー。これに英訳とかつけるともっと外国でウケルだろうが、そこまでやるのはメンドクサ。

 内容が内容だけに出版社がやる仕事がほとんどなく、古い本のOCR読み取りも特殊文字入力も校訂作業も全部こっちでやることになる。いっとくけど国の補助を受けて出すので、印税もゼロ。どころか持ち出しである。

 面白いのが、こうやって世間一般でいえば金にもならず、手もかかるという本ほど、息長く売れ、それを手にとった人から感じの善いコンタクトがある。

 1989年の東欧民主化の年に編集した本が、22年たって再び中東・北アフリカ民主化の年にパワーアップして登場するのもまた一興。あくまでも助成金でたらの話しだけどね。というわけで、今年の夏も去年に引き続き家にひきこもってリトリートを行うことが確定。

 文化に貢献したり、専門家の研究の役に立つような仕事を残すことは、建築家が橋をかけたりするような作業にもにている。手がかかって大変だけど、何か個人の人生をこえて、もっと大きいものにつながっていくような感じである。これがあるから学者っちゅうのはやめられん。

 あと、デリーの法王事務所でダライラマ法王の誕生75周年写真集の企画が進んでいるそうで、文章部分にはファンからのメッセージがよせられるらしい。そのメッセを書く一人に光栄にも指命されたので、今文作中。

 歴史学者らしく、観音からはじまるダライラマの系譜を織り込んで長寿祈願文でも書くかあ(笑)。出版の暁にはみなさん、よろしこ!

 こういう原稿書きは楽しい。
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COMMENT

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PenbaYakdu | URL | 2011/02/21(月) 19:50 [EDIT]
レニングラード版なんてのもあるんですね・・・

学界には先生ご夫妻のように奇特で珠玉のお仕事をする方がいらっしゃるものだとあらためて思いました。

先生は硬軟合わせ持ってらっしゃるというか、ココではやや軟の方に力が入っている(笑)ので、ついつい私ごときも身近に感じたりなんかしますが、珠玉の瓦礫に在るが如し、とはこのことですね。

こういう専門家のためのお仕事に助成金出さないといけないです。でも印税0というのはヒドイ。


yamada | URL | 2011/02/21(月) 23:08 [EDIT]
Ishihama and Fukuda Ed. のMahavyutpatti, 図書館で全頁コピーしたものを毎日のように利用しています。本書は古書マーケットですら手に入れるのが困難ですので、再版は実にうれしいニュースです。本当に素晴らしい仕事である本書の再版、ぜひとも早期実現をお願いいたします。

カルマ・フォーチュン(♪♪) | URL | 2011/02/22(火) 11:38 [EDIT]
何とか上の子も卒業が決まり、ほっとしてます。
あとは、下の子の高校時代の部活のコモンの先生の頼まれ事だけかぁ。
(スピードスケート部たちあげて本当に、部活続ける気なのか?)

先生、大変です。
近所の本屋が潰れました。(そのあとが、ゲオがはいる。)
専門書は、また、せっせと、名古屋か栄まで出ないと駄目そうです。
一様、新瀬戸駅前のスーパーにも本屋があるのですが。
そこまで出たら、名古屋まで出た方が、早い。
瀬戸北高前にあるのに、何でなくなるのか、永遠に謎だ。
● 管理人のみ閲覧できます
| | 2011/02/22(火) 13:17 [EDIT]
このコメントは管理人のみ閲覧できます

嶺のシラユキ | URL | 2011/03/01(火) 09:51 [EDIT]
>Penbaさん
ニュートンが万有引力の法則発見してもお金にならないように、もっとも基本的なことに近づけば近づくほど営利とは離れるのは仕方ないんですよ。

>yamadaさん
拙編著を大事にしていただいて感謝です。年もくっているのでどれほどリニューアルできるか謎ですがいい本だずべくがんばります。

>カルマさん
専門書はいずれにしてもホンヤさんに並ばないので、大学図書館とかに所蔵されるのみだと思います。発行部数少ないし。

嶺のシラユキ | URL | 2011/03/01(火) 10:04 [EDIT]
>モモさん
ご心配ありがとうござします。逃げた時にまっさきに警察に届けています。ご家族の方が逃がしたので、そのあと大変だったようです。

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