白雪姫と七人の小坊主達
なまあたたかいフリチベ日記
DATE: 2011/05/18(水)   CATEGORY: 未分類
チベット教科書出版の状況
 実はTCV(チベット子供村)で使っているチベットの教科書の和訳を入稿してもう三年になるのにまだ出ない。すでにもう催促メールを何十本となくだし、電話もかけ、そして毎度「必ず出します」というので引き下がってきたが、出たためしなし。昨日も恒例の電話をかけたら「今週中に二校を出す」というのだが、これでこなかったら、もう引き上げも考えねばな。

 岩波世界史料集成みたいな、みなでよってたかって作るヤバイ本が何年も遅れるのはよくある話だが、それは原稿がバラバラで統一に時間かかったりとかしていることが多くて、もう入稿して三年でないなんてことは普通ない。

 TCVの教科書の見所は、途上国の教科書にありがちな、ナショナリズムの陥穽に陥っていないこと、チベット人の歴史と文化を教えるものなのに、お釈迦様の伝記やインドの仏教者たちの伝記とか、伝統的なチベット史同様、インドからチベットへの仏教の流れが記されていること、また、ただ単に歴史を教えるだけでなく、仏教の基本的な教えとか、はずせない倫理とか、はては簡単な仏教論理学のディベートの仕方まではいっていることである。

 ようはこの教科書、知識よりも、智慧をつけるように作られているのである。
 日本では「倫理や道徳を国や学校がおしつけると戦前みたいになっちゃうから、家庭でやって」と丸投げした結果、コドモたちの精神的なスペックは親の資質如何でバラバラになってしまった。はては、この国では「善」とか「正義」とか「自由」をまともに考えもしないうちに、「争いの元になる胡散臭いもの」として封印する勢いである。

 一方のTCVはほぼ全寮制で、仮に親のいない子であっても、センセ、寮母さん、コミニュティの坊さんなどがよつてたかってコドモを世話するので、総じて思いやりある大人に育ってくれる。もちろん勉強出来ない子、オチこぼれはいくらでもいる。人間だもの。TCVは支援で動いている学校なので勉強する気のない子は退学にせざるをえないけど、日本にも膨大な不登校児がおり、さらに、難民社会であることを考えれば、仕方ない部分である。

 一方、本土チベットで、チベットの子供たちは、チベット人の歴史を「中国の地方政権」という形で教えられる。つまり彼らが学校で学ぶ歴史の大半は中国史なのだ。
 
 中国の歴史教科書が、それを読んだものをナショナリストに換えてしまうものであることはよく知られている。なにしろ、日本をはじめとする帝国主義諸国(イギリス・アメリカ・フランス・ドイツ)の悪行がこれでもかと述べられる一方、これに立ち向かった中国人は愛国人士とほめたたえられるため、この教科書を呼んでいるうちに自然と「自国こそが正しく、他国は敵」と憎悪する価値観がばっちり植え付けられるようになるのである。この教育が中国の「統合」を助け、外国との摩擦を生んでいることはよく知られている。

 これは中国に特異な現象ではなく、たいがいの途上国は自国の「統合」のために歴史を「利用」しており、たとえば、ソ連が崩壊した後にできたような歴史のあさい国でも、太古の昔からの歴史を記した教科書がある。今その国を構成している民族と直接関係あるかどうかわからんような過去の民族や国をかきあつめて、その国の前史とするのである。その目的が国への帰属感をもりあげるためであることは言うまでもない。

 途上国の歴史教科書によくある特徴は「自らの帝国は過去には偉大であったが、近代に入ってその大半は失われた」という被害者意識。

 中国の国恥地図なんて、対馬も東南アジアも含まれた広大な地図を提示して、それが帝国主義列強によって奪われた、みたいなことを書いている。カンボジアのクメール帝国なんて黙っていたらインドシナ半島のかなりな部分を占めていて、カンボジアの人々のナショナリズムを刺激している。

 しかし、ご存じのとおり、宗教・民族構成と無関係にひかれた国境に囲まれた領域国家なんて近代の産物である。いわゆる大帝国なるものはその実体はスッカラカンの権威体制で、現在でいうところの実効支配とは無関係。かつ、その権威なるものは権威を主張するものの一方的な主張によるものであり、それが地域で受け入れられていたかもナゾ。そのような過去の帝国を現在の国民国家につなげたら、ああら大変。

 「ボクたちは被害者だぁーっっっ」というバーチャル被害者が世界中にいっぱい生まれることになる。

 一方、リアル被害者なチベット難民たちは、ナショナリズムにもとらわれず、自分たちの文化が世界に通用するものであることを静かに示し、迫害されている当事者である自分たちから「争いではなく話しあいで解決したい」という姿勢をみせることにより、世界が経済力や軍事力ではなく自由や正義などによって変わることを信じて生きている。

 チベットの教科書は伝統的な記述形態をとっているので、一般人にはやや読みにくいかもしれないが(とくにディベートのとこなんて実践やんないといみわかんない)、一見の価値はある。

なので、とにかく早くでてもらいたいのですが、いかんせんこんなことになってます。もし原稿引き上げることになったら、この場で報告しますので、興味ある方、コンタクトください。
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| | 2011/05/19(木) 01:07 [EDIT]
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mimaco | URL | 2011/05/19(木) 12:58 [EDIT]
TCVの教科書の和訳出版のお話をだいぶ以前にお聞きし、読ませていただこうと思っていた気がするのに、一向にその気配がないな…?には、そんな訳があったのですか!
催促されて「今やります」と返す相手って、たいていやりませんよね。
ここは是非どちらか本気で出版するところが名乗りをあげて頂いて、日の目を見て欲しいです。出版関係の方、人気がある一部の著名人の同じような本ばっかりぞろぞろ出版せずに、価値ある本を埋もれさせないようにしてください~。何より、私が読みたいです。
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| | 2011/05/20(金) 01:20 [EDIT]
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| | 2011/05/22(日) 19:25 [EDIT]
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シラユキ | URL | 2011/05/25(水) 00:31 [EDIT]
>rdo rjeさん
了解しました。ここで報告します。

>mimacoさん
ありがとうございます。一応今二校がきていますが、今の出版社がどうなっても何とかしますので、その節はよろしくお願いします。

>もとこさん
TCVでは普通の近代教育とならんで、チベットの歴史・文化を教えるものとしてこの教科書があるのです。たしかに里親さんは読みたいですよねえ。鋭意がんばって出したいと思います。

>Sさん
念を送ってくださるとのこと、期待しています。もはやこの世ならざるものの力にすがりたい気持ちです。

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