白雪姫と七人の小坊主達
なまあたたかいフリチベ日記
DATE: 2011/08/29(月)   CATEGORY: 未分類
『ダライ・ラマこころの自伝』
 本エントリーは『ダライ・ラマこころの自伝』という最新刊の書評です。
 
 原文はフランス語で、ソフィア・ストリル=ルヴェというフランス人の女性が、ダライラマ法王に対して行ったインタビューに基づいている。インタビューというのはインタビュアーが対象者をどれだけ理解しているかに応じて、対象から引き出されてくる話の善し悪し、深浅もきまってくるが、このソフィアさんはその点については申し分ない。

 パリ大学でサンスクリット学を学び、ダラムサラに滞在して15年にわたりダライラマ法王の『カーラチャクラ・タントラ』の講義をきき、西欧の言葉に翻訳した方であるため、チベット文化にも、法王の思想についても精通している。

で、フランス語から日本語訳してくださった訳者もこれまたスゴイ。大体仏教を知らなかったり、ダライラマという方をご存じなかったりすると、とんちんかんな訳が炸裂するものだが、今回の訳者のルトランジェ治美さんは、本当にチベットをよく理解し、愛している方である。

 ご主人は有名なフランス人の画家で、ご本人も美人で品があってマッダームなカンジで、チベット語の口語もできて、何より謙虚で敬虔。

 その昔、私がチベット本土で、スタディ・ツァーを行った時のことである。このツァーは私がその時ツォンカパの伝記を翻訳していたこともあり(はい、アマゾンのページはここクリック)、ツォンカパゆかりの聖地をまわるツァーであった。

 その旅のお笑い内容は「犬も合掌ツォンカパ聖跡ツァー」という旅行記に明らかである(はい旅行記はここクリック)。

 わたしたちが巡る地はチベット資料をたどっていくものなので、ガイドブックにのっているような一般的な聖地でなく、現地のガイドの方に調べて戴いてやっとたどり着くような場所で、そこについてみると、もちろん中国による破壊の後はすさまじいのだが、それでも破壊しきれなかった、石に浮き出た像とか文字とかさまざまな聖遺物があり、そこを何とか護り続けているお坊さんの姿がけなげであった。

 で、この旅行記の後半に、セラ大僧院の裏山セラチューディン(ツォンカパが説法していた時にはまだセラはなく、その裏山で法を説いていた。)を求めて山の登りをして挫折する件があるが、この時私についてきてくれた三人のうちの一人が治美さんであった。で、この旅行記にもあるように目の前にあるのだが、そこに至る道が分からないので、どうにもならず、頭上にハゲタカもまうので私たち四人は負け犬となってしおしおと帰った。

 しかし、治美さんは諦めなかった。彼女は我々のツアーが帰ったそのあとも、ツォンカパが名著『菩提道次第論』を記したラデン大僧院にお参りし、ラサにもどると、もう一度セラチューディンにトライしてちゃんと行き着いたのである。そして、その写真を私の先ほどの訳書の口絵に提供して下さったのである。

 菩薩様のような信仰心と行動力である。その菩薩様がフランス語から和訳を行っているのだから、内容は確かである。

 ダライラマ法王が自身の立ち位置を(1) 一人の人間として (2) 一僧侶として (3) 一チベット難民としてという、普遍から特殊にいたる三つに分けていることはよく知られている。第一の立場で語る時は人種、宗教、体制、国を超えて用いられる普遍的な言葉を用いて「人のあるべき姿」「とるべき行動」について述べる。

 第二の立場からは、一人の宗教者として、宗教の違いによる紛争を和解させることを行っている。無宗教は神も仏も信じないという無宗教という宗教なので、まちろん社会主義と資本主義みたいなイデオロギー対立も無意味と説くのがこの立場からである。

 第三の立場とは、チベット難民のスポークスマンとして、チベットが中国によって国を奪われ、その文化を維持できない状態になっていることを訴えるものである。この三つの立場は矛盾しておらず、チベット文化は非常に普遍的な性格を持つため、世界文化に貢献できるので、この文化を維持することは人類にとっても非常に良いことである、という視点からチベット問題の平和的解決は訴えられる。

 で、本書はこの三つの立場にそって部が分かれているので、一般的な意味で自伝と考える部分は従って、第三部に主に記されている。ただし、他二部においても若い頃のエピソードとかが入るのであまり固く考えずに、これ一冊でダライラマの人生も考え方も分かる、くらいの気持ちでいるといいと思う。

 日本では平和思想というと、「なすべき事もなさざるべき事も、良いことも悪いことも、すべて曖昧にして、争いを行わない」という実にどうしようもないスタンスをとる人が多いが、

 ダライラマ法王の平和思想は、この両者をきちんと分けた上で、その上で悪をなすものに対して、怒りをもって糾弾するのではなく、その醜い行いに対して、哀れみをもって「大人になれ、それがあなたに本当の幸せをもたらす」と呼びかける

 これまでの人類の歴史は戦いの連続であった。戦争には勝つ者と負ける者がおり、チベットはまさにその敗者となったわけであるが、著者ソフィアも言うように、ダライラマ法王はこのような古くさい争いの次元にはたっていない。ダライラマが過去五十年間とってきた徳の高い行いは「戦争に対する勝利」であり、こう考えると、亡命してから「過ぎ去ったこの五十年は空しい時間でも、失われた年月でもなく」なるのである。

 そして、もしチベット問題が平和的に解決すれば、これは人類がはじめて軍事力や経済力ではなく、その徳の力で歴史を動かした瞬間となる。つまり、ダライラマの思想や生き方は人類の存続の希望なのである。

 そのことを示すべく、本書は、「絶望は何も生み出さない、希望の根源たれ」という旨のダライラマの詩で結ばれている。

 ダライラマ法王は亡命直後にMy land My people(邦題『チベット、わが祖国』中公文庫)という自伝を、ノーベル賞平和賞受賞後の1990年にはFreedom in Exile (邦題『ダライ・ラマ自伝』文春文庫)が書かれている。本書は2010年のものなので、それぞれの時期の自伝をくらべ読むと、後になるほど、法王が昔をゆったりと思い出すようになっていくことがわかって面白い。
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COMMENT

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● 宗教と神様について
いんこさん | URL | 2011/09/01(木) 21:46 [EDIT]
こんにちは。以前メールで救われた者です。ありがとうございました。
自分は仏教については、不勉強な身ながら、神様の存在を強く実感した事があります。具体的には啓示なのですが、仏教でも神様が夜に目の前に光をもって、預言や天国の実在を示す事はありますか?私は神に呼び出され、光を受け、将来について少し神からメッセージをもらった事があります。
宗教はキリスト教、仏教と異なっても神様については共通した概念を持っていると考えていいのでしょうか。
私は今ちょっと精神的につらいのですが、時間があればダライ・ラマに関する本を読んでみようと思います。

※先月23日はありがとうございました。
● 小鳥の話ですが…
小雪 | URL | 2011/09/03(土) 00:50 [EDIT]
イシハマさん、こんばんは。長らくご無沙汰しております。
最近ツイッターを初めて、ダライラマせんせをフォローして、翻訳ソフトを使って読んでます。
が・・・訳し方が変なのが多くて、意味不明のまま終わること多々ありです。(^^ゞ


話変わって、小鳥についての重大な情報を仕入れましたので、シェアさせてください。
中毒の話では金属が主ですが、ミクシィの小鳥コミュから拾った情報で、驚くべき事が分かりました。

トピを立てた方は、冬場は締め切った家の中で、レンジオーブンで調理していたら、2時間後に、6羽中5羽が急死し、1羽は入院してなんとか助かったそうです。
フッ素やテフロン加工したフライパンもかなり危ないんですと!
悲しみを乗り越えて情報をシェアしてくださった不屈の精神には脱帽もので大変有難く感謝・感謝ものでした。
みんなのために行動すると、勇気と力が湧いてくるものなんですね。

他:参考サイト
[電子レンジ 有害ガス インコ死亡 悲しいカナリア]
http://shinagawa-lunch.blog.so-net.ne.jp/2008-05-12-2 

[樹脂加工フライパンから有毒ガス発生]
http://www.kcn.ne.jp/~gauss/env/pan.html

ゴロウちゃんが長生きできているのは、イシハマご夫婦の愛ゆえですけど、今後も、調理をされるときには十分お気を受けくださいね。
ご存知でしたらチョンボですが…^^;
鳥関係のお友達に伝えていってますのでお許しを。

嶺のシラユキ | URL | 2011/09/03(土) 12:39 [EDIT]
>Oさん
 『ダライ・ラマ幸福論』(角川春樹事務所)がいいかもしれません。ホンモノの宗教は、山のぼりと同じでいきつく頂上は同じで、道が違うだけと言われています。聖者はみな人格者になって光り体験しますしね。ただ頂上までいける人は本当にごく僅かですので、簡単にいける境地でないことは確か。

>小雪さん
テフロン加工の鍋のからだきがアブナイのはわたしもホムペで告知したことあります。本当に簡単に小鳥は死んでしまうんですよね。
ツイッターでダライラマ法王の言葉の翻訳をmmba officeがやっています。全部じゃないですけど。

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