白雪姫と七人の小坊主達
なまあたたかいフリチベ日記
DATE: 2011/09/30(金)   CATEGORY: 未分類
『清朝とチベット仏教』
本日30日、拙著『清朝とチベット仏教』の引き渡しがある。いよいよ、最初の一冊を手にとることができる(アマゾンで買えるようになったら告知しますね~。)。

※10/2日たまたまアマゾンみたらもうページありました。早稲田大学出版部仕事早いですねー(アマゾンはここから入れます)。と思ったら、取り次ぎが棚卸しでアマゾンへの供給がぱったり途切れているそうな・・・(笑)。


 記念すべき二冊目の専門書。
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理系と違って文系の著作は学界における滞空時間が長い。19世紀のチベット研究者の書いた論文だっていまだに引用されているくらいだ。今回の本は論考に加えて史料も厚いので、私がこの世からいなくなった後もいろいろな形で参照されるかと思うと感慨深い。

 前著『チベット仏教世界の歴史的研究』においては、主にダライラマ五世の時代、チベット、モンゴル、満洲の三王侯は「仏教に基づく政治を行う者を善、行わない者を悪」として、戦争したり、講和したりしていたことを明らかにした。

 当時、仏教と政治を表す言葉は満洲語でdoro shajin、モンゴル語でtoru shasin、チベット語でchos sridという熟語化しており、チベット、モンゴル、満洲の王侯は、これらの言葉を「自分はdoro shajinを考えている、大事にしている。しかし、敵はdoro shajinの破壊者だ」というような文脈で多用して、自己の正当化や他者の非難を行った。

 ちなみに、この熟語にあたる漢語は存在しない。つまり、この言葉は漢語をしゃべる人たちには理解されていなかったのだ。

 で、前著でも書いたけど、仏教と政治について当時のモンゴル史料『白い歴史』(ツァガーン・トゥーフ)はこんな風に定義している(ちなみに記憶で書いてます 笑)。

 政治のトップは、仏教を尊び、仏法に則って政治を司る転輪聖王である。
 仏法のトップは、その転輪聖王に対して灌頂を授ける法王である。

 仏法は世俗の幸せのもとになるので、仏法は世俗の上にある。

 で、たとえば、元朝をたてたフビライとその師僧をつとめたパクパの場合、フビライが転輪聖王でパクパが法王である。この二人がセットになって現れた時代は、16世紀後半くらいから美化されて、仏法に則った政治が栄えた理想の時代とされた。

 で、さらに言えば、僧形の王ダライラマ五世が君臨していたチベットは、政教一致なので、理想の国とされた。ダライラマ五世が転輪聖王を表す法輪を持ち、観音菩薩のシンボルを持つのは、彼が世俗と仏教の両方の王であったことを意味している。

 で、今回の拙著は、この仏教政治を理想と崇めたチベット、モンゴル、満洲の王侯たちの中から、満洲人たちに焦点をあてた。

 世界史の教科書にも書いてある有名なことであるが、清朝は1636年に第二代皇帝ホンタイジが再び即位式を行って国号を大清と換えたことにはじまった。その七年後、この王朝は中国を征服して、その王朝はつい100年前の1911年まで存続していた。

 そしてややオタクな話をすると、この1636年の即位式とは、ホンタイジがチンギス・ハーンの直系と言われるチャハルのリンデン・ハーンを滅ぼしたことを契機に行われた。この際、リンデンの持っていた大元伝国の璽とパクパの鋳造したマハーカーラ尊はホンタイジの手にわたった。

 ホンタイジはまず即位式で、大元伝国の璽を誇り元朝の政治を継承することを示した。そして同時に、パクパが鋳造したマハーカーラ尊を祀るためにチベット寺の建設に着工し、元朝の仏法を継承することを示した。この時建った寺が盛京(瀋陽)の實勝寺である。

 でそれ以後も清朝は治世の要を迎えるごとにチベット僧院をたてまくった。

 まず、ホンタイジが死の床につくと、彼の在世中の悪業を帳消しにつするために盛京の四方に四つの巨大な尊勝塔をたてた。

 そして、第三代皇帝の順治帝が親政開始した年には、一塔二寺(法海の白塔と普勝寺と普靜禪林)が同時に建立された。

 この時、北京の一塔二寺を建てた高僧にはノムンハン(法王)という称号が授けられた。つまり、順治帝は暗に自分を法王とセットになる転輪聖王と言いたかったと思われる。

 で、1690年に康煕帝がハルハ・モンゴルを降伏させた際にも、わざわざ元朝の夏の都にハルハの王侯を集めて、その近くに彙宗寺というチベット僧院を建てた。そして、この彙宗寺のトップにはチベット留学歴のある青海の僧チャンキャ二世が任じられた。このチャンキャには灌頂大国師号が授けられたのも、康煕帝が自らを灌頂を授かった王、すなわち転輪聖王になぞらえていたこと、パクパとフビライの元朝期を意識していたことがわかる。

 で、拙著の中心に来るのが乾隆帝の盛世である。もう気合いいれて乾隆帝が仏教僧の扮装した絵をカラーページが四枚も入れてます(笑)。

 乾隆帝ったら自分の即位の十年をハデに祝った。北海のほとりに、22mもの白傘盖仏つくってまつるわ、北京初のチベット僧院雍和宮をたてるわ、フビライがパクパから灌頂授かったことに倣って、チャンキャ三世から灌頂授かるわ、とくに白傘盖と灌頂は明白なフビライとパクパに対するリスペクト。

 元史見ると分かりますが、フビライがパクパの助言を受けて白傘盖仏を祀ったのも即位十年目。

 で、いちいち書くと長くなるけど、その後も乾隆帝は政治的な成功を収めるたび、また、自らや皇太后の誕生日ごとに、もうどこどこチベット僧院を建てた。今も、北京、承徳には雨後の竹の子のように生えたポタラやらサムエやらタシルンポやチョカンを見ることができる。

 こうやって、政治上の成功とチベット寺の建築が同時に行われているのは、「私は仏教に則って世の中を治めていますよ。転輪聖王ですよ」と仏教徒にサインを送ったいたからに他ならない。

 清朝皇帝は建国当初から最盛期の乾隆帝まで、自分たちの王朝が「仏教に基づく政治を行っている」と内陸アジアの仏教徒に強くアピールしていたのだ。

 まあ、そんなことを書いている本です。

 前作がダライラマ五世の時代を頂点にもってきて、チベット仏教界の最盛期を扱い、今回は清朝がチベット仏教世界に参入し、モンゴルと競いつつ徐々に権威をつけ、乾隆帝の時代に最盛期を迎えることを述べたもの。私は上弦の月、上り坂の時代が好き。

 序論のところで、本書の立ち位置や視点や史料の性格や事例研究の重要性などについて言及しているので、それを理解した上で読んでください。

 ちなみに、内輪を集めて強制的に行う出版記念パーティでお披露目するつもりで、拙著のメイキングのフォト・ムービーまで作りました(どんだけ暇なんだ 笑)

 四分ちょっとで全体像がザッパに分かるようになっています。学術的な内容を扱っているので、いつもよりちょっとまじめ。ここで公開したいところですが、音楽が著作権に触れるので(このメロディが面白いくらい内容と同期する 爆笑)、できません。

 なので、お好きな方は、対面でお会いした時に記念にさしあげまーす。事前に連絡くださいね~。

 え? いらない? (笑)
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あくび母 | URL | 2011/09/30(金) 13:31 [EDIT]
是非、いただきたいです。 お会い出来る日が楽しみです

セン | URL | 2011/09/30(金) 13:46 [EDIT]
ご出版おめでとうございます。私も後日購入します。
ところで、chos sridを漢字に置き換えたら、「法政」になりませんか?
同じ名前の大学がありますね。

Noriko | URL | 2011/09/30(金) 15:43 [EDIT]
本は購入しますが、私の頭で理解できるのか不安です。ぜひメイキングも頂きたいです。

Hisano | URL | 2011/10/04(火) 09:55 [EDIT]
先生、Amazon在庫切れになってしまっています…
Amazonに入荷連絡予約をしましたが、楽しみはしばらくお預けになってしまいました。

嶺のシラユキ | URL | 2011/10/04(火) 19:12 [EDIT]
>あくび母
上京される際にディスクお持ちします。

>センくん
不思議なもので、チベットでは法政なのですが、モンゴル・満洲では政法の並び順なんですよね。世俗の王侯がまだぶいぶいいってるからかね。

>Norikoさん
ムリして買わなくても、図書館に入れていただければ(笑)。ムービーはたとえばチベットの法話とかにいく時に明日いくよーというので、メールください(笑)。

>Hisanoさん
そうなんです。取り次が棚卸しでしばらく放置らしいんです。もうでばな挫かれ・・。

てづか | URL | 2011/10/10(月) 11:27 [EDIT]
今年のチベット学会の大会にはいらっしゃるんでしょうか?
ほしがりそうな者のこころあたりが、自分自身も含めて4,5人♪

ところで、「森」のほうで触れておられた「陀羅経被」は、結局ご購入になったのですか?

シラユキ | URL | 2011/10/10(月) 12:34 [EDIT]
>てづかさん
陀羅経被はまだ迷っています。自分の葬式で笑いをとるために買っておくというのはアリだと思うのですが、受けているかどうか観ることができません。

また、チベット学会は翌週が猊下の大阪公演なのでどうしようか迷っています。人としては行くべきなのですが、なにせ怠惰なもんで。

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