白雪姫と七人の小坊主達
なまあたたかいフリチベ日記
DATE: 2011/12/18(日)   CATEGORY: 未分類
ケサル大王伝
ドキュメンタリー「ケサル大王」(大谷寿一監督)を見た。

 映像人類学的にいって非常におもしろい内容であった。東チベットの各地をまわり、チベットの英雄叙事詩ケサルに関する、様々な事象を探っていく。ただし、まだ編集途上といった感じで、内容が整理されておらず、また音がうまくつながっておらず(音を入れた後で映像を編集したのか?)、同じ映像がかぶったりしていて、そこが残念。しかし、1つ1つの素材は非常にいいので、以下に見た方のガイドをするために、構造的に内容を整理して示す。

 私の見たところではこのドキュメンタリーには以下の3つの柱があり、それを根拠として、チベット人がケサルにかける隠された思いを明らかにしていく。

 1つ1つの柱の下に、ドキュメンタリーで用いられたエピソードの塊を●で記した。2と3は作品内では分かちがたくくっついているが、分離して考えるとすっきり理解できる。

 1. ケサル伝のあらすじ

 ●リタンの競馬 ●カム(東チベット)の美しい草原 ●ケサルの魂を宿すアムニェマチン峰 ●東チベットの男女の伝統的な生活

 2. 現在のケサルの受容形態

 ●ケサルの語り部たち ●ケサルに関連した史跡 ●町の中心や岡の上に次々築かれるケサルの銅像 ●ゾクチェン寺のケサル仮面舞踏 ●ケサルの30人の将軍の一人の生まれ変わりとされるルクジャリンポチェの活動

3. 中国によるチベットの弾圧

 ●1956年のリタン空爆 ●文化大革命によるゾクチェン寺の徹底破壊 ●地球温暖化の草原に対する影響 ●遊牧民の強制定住 

 4.チベットの人々がケサルに託す思い

以下、ツッコミをいれながら各部分の詳しい説明。
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 1. ケサル伝のあらすじ

 ケサル伝とは、チベットが群雄割拠の時代にあった10世紀の東チベットを舞台にした、英雄叙事詩である。地上の争いを収めるために天は一人の子供を地上に遣わす。その子ケサルは叔父にいじめられたりしながらも無事に成長し、12歳の時に乗馬の長距離レースに勝利して王位につき、周囲の国々を支配下に入れ、そこに仏教を広めて世界を平和にしていく。

 話の見所は、ケサルの酒好き女好きなところ、また、天から遣わされた英雄であるため、単純に武力ではなく、知力を尽くして敵を倒すところにある。

ケサルが競馬で勝利した部分を紹介する際、現代のリタンの競馬の映像が流れた。伝統的な衣装に身を包み、宝石を全身につけたカムの女たち。その女の子たちの気を引こうと曲乗りをする男たち。
 1kmの長距離馬レースは、先頭をきって走る馬のまわりに、ジープやバイクにのった青年がもりあがって併走するため、初日の出走行をする暴走族を想起させる、そこはかとないガラの悪さが・・・。


 2. 現在のケサルの受容形態

 ● ケサルには全部あつめると100とも言われるさまざまなエピソードがある。今はこのエピソードは文字におこされて、叢書として出版されているが、本来は語り部と呼ばれる人が口承で伝えてきたものだ。しかも、このような語り部は、もともと教育を受けていない文字も読めない・かけない人が多く、ある日突然天の啓示を受けてしゃべりだす。洋の東西を問わず詩人・文学者の才能は天からくるものなのである。

 興味深かったのは、ウーセルという名の医者であり、彼の下には今日も新しいケサルの物語が降りてきている。もずダイク(brda yig)と呼ばれる象徴的な一連の文字が頭に浮かび、それにともなって物語があふれでて、一気に書き上げていくのだという。モーツァルトか

 ●東チベットにおいてケサルは絶大な人気を誇るため、リタンやギグドなどの大きな町にはケサルの像がたつ。興味深かったのは、ケサルの仮面舞踏を伝えるゾクチェン寺の話。ゾクチェン五世の頃、彼が夢で感得した内容に基づいて、ケサル伝に登場する様々なキャラクターの仮面が作られ、以来寺ではケサルの仮面舞踏を受け継いできた。そして2011年のゾクチェン寺のケサル舞踊の映像が映し出される。

 カラフルな仮面と衣装がとても美しい。中でも笑ったのは、ケサルの誕生とともに、世の中は生命力にあふれたため、動物の子供たちがたくさん生まれたという件で、鳥や獣やはてはヘビのきぐるみをきた人間が本堂の階段を駆け下りてくる。

 ケサルもケサルの30人の将軍も巨大な仮面をかぶるので、視界が狭そう。その狭い視界で、ゾクチェン寺の凍り付いた階段をかけおりてくるのだから、いつ、誰かが転んでもおかしくはない。私だったらあの階段をあの早さであの仮面をつけて走り降りたら、三段で転ぶ。

 この仮面舞踊は本当にすばらしかった。awesome! 

 ●次に印象深かったエピソードは、ケサルの30将軍の一人の生まれ変わりと言われるルクジャ・リンポチェ。この方は棒につるしたナイロンの布を用いて、岡の上に仮設の仏塔の姿を作り出す運動を行っている。この仏塔が完成すると、その仏塔の扉部分にあたるところに、教典や五穀などをつめた壺を埋蔵していく。チベットのニンマ派には開祖パドマサンバヴァが、来るべき仏教弾圧の時代に備えて、チベット各地に教典や法具を埋蔵したという伝説があるため、それにちなんで、行っている儀式である。ニンマ派の伝統が東チベットには今も力強く生きていて、コミニュティをまとめていることに感心した。

3. 中国によるチベットの弾圧

 東チベットはどこよりも早く人民解放軍の蹂躙を受けて、大きな被害を出した。東チベットの中核都市リタンも、中核となる僧院は空爆を受けて破壊され、多数の僧侶が犠牲になった(しかも、中国共産党はこれを隠している)。また、今は再建されたゾクチェン寺も文革によって一度廃墟となっている。ハコモノとしての寺が再建された後も長い間座主は空席であり、七年前、北京の高級仏教学院卒のゾクチェン10世が座主になったという。つまり、今目の前にしているゾクチェン寺の本堂も、ケサルの像も仮面もみな三十年前に作り直したものなのである。

 また、2008年オリンピックの年のチベット人蜂起のあと、あらゆる「チベット人の集まる催し」は中止された。なので、ドキュメンタリーで流れた2011年のゾクチェン寺の仮面舞踏も、三年ぶりに再開されたものであった。ルクジャ・リンポチェの埋蔵儀礼も当日になって予定が発表するなど、当局の圧力が随所に垣間見えている。

 また、ケサルの魂を宿すという霊峰アムニェ・マチンも、中国人による鉱山開発で荒らされている。また、何より悲しむべきは、中国政府は「遊牧民たちが過放牧をすることによって草原を荒らしている」と主張し、彼らに遊牧地を放棄させ、町のはずれの団地に強制移住させる政策をとっていることだ。

 草原があれる理由は地球温暖化や西部大開発(はい日本がお金だしてます)にも原因があるにもかかわらずである。

 近代教育を受けていない遊牧民たちは当然のことながら、その時点から日本でいえば生活保護者のようになり、誇りももてない未来のない人生が始まる。ケサルを語り継いできた自給自足の誇り高い草原の民が、中国支配下のチベットではみじめな生活保護者になっていく。目も当てられない。

 そこで、これらを受けて、最後の部分がでてくるのである。

 4. チベット人がケサルに託す思い

 ケサルは強くかつ慈悲深いの王として描かれている。監督は、ケサルの慈悲の面については、中国支配下のチベットにおいて慈悲の化身であるダライラマ14世をおおっぴらに信仰できないチベット人にとって、ダライラマにかわる機能を果たしている、とする。
 さらに、ケサルの武の面に対する崇拝は、中国にここまで蹂躙されても押さえられないチベット人の民族再興の思いが託されている、と結ぶ。

 監督は最後にこのような言葉でしめくくった。

 2009年、ケサル語りは世界遺産無形文化財に登録された。それとともに漢語でのアニメ化、映画化が始まっている。ケサルが漢族の英雄になっていくことを危惧する。

 パンダのように。

 とこういったカンジです。

 全体に非常にいい素材なので、整理すればかなりよくなると思います。
 最後に独断と偏見に基づいて私の希望を一言。

 作中に英語の通訳として登場する20代前半のツェリンくんが影のあるイケメンで、一緒にこのドキュメンタリーを見ていた女性陣のハートをわしづかみにしていた。ツイッターでツイートしても彼がイケメンであるという点はみなが一致していたので、以下提案。

 都会のチベット人であるツェリン君が、ケサルについてしらべていく内に自らの文化を再発見していくという構成で全体をまとめたら、少なくとも日本女性はDVDをまとめ買いすることと思います(笑)。

 次のエントリーで今年の五大ニュースならびにSFTの新作カレンダーの紹介します。期待してね!
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