白雪姫と七人の小坊主達
なまあたたかいフリチベ日記
DATE: 2013/04/18(木)   CATEGORY: 未分類
オンラインで手にできるチベット情報
新学期も始まり、ひょっとしてチベット学に興味をもつ奇特な人が現れないとも限らないので、オンラインで手に入るチベット学関連データベースについて一部なりとも紹介したいと思う(全体像はムリ)。

 いきなり専門的な話をするとひかれるので、専門家でなくても軽く楽しめるサイトから。1959年前のダライラマが君臨していた時代のチベットの古写真はピット・リバー博物館と大英博物館プレゼンツチベット・アルバム (Tibet albumここクリック)で楽しめる。撮影者(photographer)や、撮影場所(place)、撮影時代 (dates)などから写真をソートすることもできる。
 
 さらに現代チベットの映像資料や音声資料を手に入れたい人は、アメリカのヴァージニア大学の提供するチベト・ヒマラヤ・ライブラリー(Tibetan Himalayan Library=THLここクリック)がおすすめ。

 表紙のページにいくと、collections(コレクション)Reference(参考資料) Places (地名)Literature (文学)などのタブが並び、それぞれのタブをクリックすると、以下のような項目が下位項目として展開する。

 まずcollections(コレクション) タブを押すと、Audio & Video Archive(チベットの民謡・祭り・法話などのAV資料)、Images(同じく寺や祭りや地域などの写真)、Maps(地図)などの項目ででてくる。キーワードはダンスだったらmask dance(仮面舞踊)やどこの土地の土地のダンスがみたいか特定しているなら、その地名を入力するなどして映像をソートすることができる。

 Reference(参考資料) タブをおすと、 Bibliographies(文献目録)、 Dictionaries(オンライン辞書)、Place Dictionary(地名辞典)、Research Finding Aids(検索の助け)や、チベット文字からローマナイズ、ローマナイズチベットからチベット文字へのコンバーターなどが手に入る。

 Places (地)タブの下位項目には、Cultural Geography(文化地理)、Place Dictionary(地名辞典)、Interactive Map(対話型地図)、Maps(実用地図)、Map Collections(地図コレクション、Monasteries(僧院)、Sera Monastery(セラ大僧院)、Drepung Monastery(デプン大僧院)、Meru Nyingpa Monastery(メル・ニンバ僧院)などが並ぶ。とくにセラ大僧院はセラの諸堂の平面図があり、みたいお堂の番号をクリックすると、グーグルのストリートビューさながらにセラの内部をパノラマでみることができる。

 そして、チベット文字をマスターした人で、チベット語のテクストを手に入れたい、今自分が読んでいるテクストにでているチベットの人名のプロフィールが欲しいという方はボストンにあるチベット仏教資料センター(Tibetan Buddhist Rescorces Cente=TBRCで検索→ここクリック)のサイトへ。このTBRCの画面の入力欄に、たとえばチベット語の人名を入力すると、その人物の称号、異名、生没年、また、父母、師匠、弟子たち、縁のある僧院の情報、その人の著作などの情報が表示される。

 このTBRCが所蔵するチベット語文献は、チベット本土以外で最大の規模をもち、その収集の歴史には、三年前に他界したチベット仏教研究者のジーン・スミス(Gene Smith 1936-2010)が大きく貢献している。なので、彼の人生を簡単に紹介しよう。

 ジーン・スミスは1936年、アメリカのユタのモルモン教徒の家庭に生を受け、ユタ大学とシアトルのワシントン大学で高等教育を受けた。シアトルには当時ロックフェラー財団が極東ロシア研究所への助成金により、サキャ派のセンターが設立されていたが、ジーン・スミスはそこに招聘されていたデシュン・リンポチェとサキャの座主を輩出するプンツォク宮の家系の人からチベット文化を教わった。1962年には他のチベット人の学者たちを訪ねてヨーロッパのロックフェラーセンターを旅した。

1965年、ジーン・スミスはフォード財団の外国地域特別研究プログラムの助成金を受けてインドにわたり、ゲルク派のガンデン大僧院北学堂のゲシェ=ロプサンルントク、ドゥクパ=カギュ派のトーセイ・リンポチェとケンポ・ノルヤン、ニンマ派のデルゴ・ケンツェ・リンポチェに学ぶうちにインドに留まる決心をする。

1968年、アメリカ議会図書館のニューデリー支所に加わり、それから四半世紀に及ぶ亡命チベット社会、シッキム、ブータン、インド、ネパールのチベッタン・コミュニティに残る典籍の復刻事業を開始した。
 
私が駆け出しの学者だったころ、東洋文庫の書庫からかり出して読んでいたチベット語の写本類は、このジーン・スミスの手によって影印出版されたもので、出版地がレーとかティンプーとかニューデリーで、序文や解説の多くは彼の手によるものだった。

 ジーン・スミスの出版活動はPL480というアメリカの法律に基づいた途上国援助の一環でなされたものであり、この時出版されたチベット語文献は印刷部数500冊のうち半分をアメリカが買い取っていた。その後、アメリカの世界宗教高等研究所(Institute for Advanced Studies of World Religions)は、チベット語文献をマイクロフィッシュ化し、1977年から販売を始めた。

 従って、私にとってPL480(ピーエルフォーエーティ)とは長くチベット語文献と同義であったが、後に知ったことであるが、日本の反米サヨクの方々はこのPL480をアメリカによる日本支配の象徴みたいなかんじでやり玉にあげていた(笑)。日本にとってこの法律がどう作用していたのかは知らないが、少なくとも、インドで行われたプログラムは、チベットの僧院奥深くの棚にねむっていた多くのチベット語文献を、誰でも安価に手に取ることができるものとした意義深いものであった。

 1997年、ジーン・スミスは議会図書館を退き、1999年には友人のレオナルド・ファン・デル・カイプ教授らとともにかの「チベット・仏教史料センター」(Tibetan Buddhist Resources Center =TBRC)を立ち上げた。TBRCは、チベット語文献を収集し、保存し、分類し、テクストの著者のプロフィールをデータベース化し、デジタル化の時代に合わせてテクストのpdf化を行っており、TBRC所蔵のチベット文献はチベットの外にある世界最大のチベット語テクスト群である。

pdf化されたチベット語文献は、著作権に問題のないものから一般に配布している(全pdfを収録したハードディスクを、チベット人の僧院には無料で、機関には一千万で提供している。個別のテクストの購入も可能)。

 ちなみに、難民社会の影印出版物はほぼダウンロードできるが、中国で出版されたチベット語の本はほぼすべて使用不可である。中国様は津々浦々海賊版をつくって世界のヒンシュクをかっているのに、他人が自分たちの作った本を二次使用するのは、学術目的であっても許さないのである。こういう図々しさは私たちにはちょっとマネができない。

 次に、チベット語文献のデータベース化にもっとも古く組織的にとりくんでいるのが、アジア古典入力プロジェクト(ACIP=Asian Classic Input Project、ここクリック)である。ACIPは宝石商として財をなしたマイケルローチ(Michael Roach 1952-)が、1988年に設立した機関で、チベット難民社会の僧院にコンピューターを送り、チベット僧たちにチベット仏教で用いられる基本的なテクストを全文入力させることによって難民社会への貢献と古典の保存の一石二鳥を狙ったプログラムである。入力したテクストは原則無料で頒布されている(ただし、密教経典は必要な灌頂を授かった者であることが条件となっている)。

あと、チベット・ジャスティス・センター(Tibet Legal Justice Center)は古から現代にいたるまでのチベットが条約締結主体になった、あるいはチベットが関係した、国際条約の原文(原文が漢字の場合は英訳)を一覧で提示している (ここクリック)。

 チベット・ジャスティス・センターの表紙ページに「チベットの人たちに人権と自決権を!」と書いてあるように、チベットに関連するサイトの多くは、中国とは別個の歴史・文化をもつチベットの自治・自決権の復活、あるいは中国の同化政策によって失われていくチベットの文化に共感をもち、保存したいとの強い意志が感じられる。

 私が東洋史の大学院に入った時は、モンゴル語であれ、チベット語であれ、まず紙媒体の高価な辞書を買い、たっかい複写費を払ってやっとチベット語テクストを手にしたものだが、 最近は、辞書はオンラインでタダで引けるわ、主要なテクストについては入力データがオンラインにあるわ、わずかな金額でTBRCから古い写本から最近でたブックスタイル本にまでpdfが手に入るわ、TBRCが実装されている機関にコネがあれば、それすらタダになるわで、初期投資なしにチベット語のテクストを収集し、読むことができる。

 思えば、1959年にチベットが中国に侵略されて滅びてから、チベット文化は恐ろしい早さで消滅しつつある。しかし、中国の破壊をかろうじてまぬかれた文献は、デジタル化されることによって消滅の危機を回避した。しかし、これらの文献を読んで理解する人がいなければ、この膨大なデータも無用の長物となる。

 なので、これらのデータを有効活用できる、多くのチベット仏教や歴史の研究者、そして実践者がでてきますように。
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