白雪姫と七人の小坊主達
なまあたたかいフリチベ日記
DATE: 2013/11/17(日)   CATEGORY: 未分類
『これからの日本、経済より大切なこと』
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11月15日にダライラマ法王が成田に到着された。同じ日、ダライラマ法王本『これからの日本、経済より大切なこと』(飛鳥新社 1300円)を大学に恵送いただいたことに気づいた。

 見ると本書は、七册の既存のダライラマ本の中から、法王の言葉をピックアップして、それに対する池上氏の解説を加えたものである。

 何年か前にも述べたが、法王が一般向けに行う法話には2種類ある。一つは仏典などを仏教用語を用いて解説する伝統的な法話と、もう一つは「慈悲」「許すこと」「エゴの克服」などの普遍的な心の美質を誰にでも分かる言葉を用いて説く法話である。本書はもちろん後者にあたる。

 このような法王法話の中から、池上氏は、悩める現代日本人にとってとくに福音となるものを選んでおり、その選び方は、あらゆるジャンルの話をわかりやすく解説することで名をあげた池上氏だけはあって結構的確である(それとも編集協力が長田さんだから?)。

 法王がまだお若いころ、初めてアメリカにわたった時のことである。とあるお金持ちのご自宅に泊めてもらったところ、その豪邸の洗面所の棚には様々な種類の精神安定剤が並んでいた。これを見た法王は「物質的に豊かであることが、精神の安定につながっていない」ことを身近に感じられた。

 そして、これまた本書のネタモトの『幸福論』にでてくる話であるが、法王はチベット難民第一世代のたくましさが仏教が生きている社会に身を置いたことに起因することを述べてこういう。
「チベット難民の第一世代は、身内を無くしたり、はぐれたりなどの過酷な体験をした上に、着の身着のままでインドに逃げてきて、貧しい暮らしをしている。しかし、いわゆるPTSDやウツの症状を示す者はとても少ない。先進国の人間は食べるものにも着る者にも困っていないのに、みな不幸そうな顔をしている」。池上氏はこの手の法王のエピソードを引用し(実際はもっと純化したのを使っている)、先進国の人間が経済的な豊かさだけでは幸せになれなかったことを示す。

 そして、法王の言葉の引用のあとに、池上本の特徴である現代社会解説がはじまる。たとえば「経済がすべてを解決しない。」と言うにしても、池上氏はどうしても「経済」について解説しだしちゃう。マルクス経済やケインズの近代経済や新自由主義が、どこがどうしてうまくいかなかったのか(社会主義はみなやる気がなくなり、資本主義は政治家が人気取りに国税を無駄遣いし、新自由主義は格差が広がる)を解説し、そのうまくいかなかった背景には心の問題があったことを示す。

そして「心の安定はエゴの克服から」と言いたい場合にも、「日本人は過去を懐かしがって文句ばかりいうのでなく、足るを知りなさい、そして人の役に立ちなさい」ということを自分の体験に基づいて語る。

 「昔はよかった」という日本人の決まり文句、その内容は
 「治安がよかった」
 「社会に道徳はあって、親は子供を愛し、子供は親を尊敬した」
 「地域社会や大家族がセーフティネットになって働かない人を養えていた」
 「学力もあった」を思い込みとして具体的な反証を挙げていく。

 「昔はケンカの末の殺人なんてありきたりすぎて、普通の殺人事件は報道されなかった。今は殺人自体が珍しいからニュースになる」

 「昔の新聞紙面は陰惨。面倒みきれない親や子を殺す話は山ほどあって、だから尊属殺人を重罪にする法律ができた。昔は子殺し親殺しがなかったなんてウソ」

 「大家族を美化するのはどうかと思う。嫁と姑が一緒にすむ息苦しさ、隣近所に家の中のすべてをしられる地域社会が息苦しさを嫌って、日本は核家族に移行してきたのではないか」

 「東京オリンピックの開会式の前日はスモッグで東京の空は曇っていた」などいいつのり

 「実は日本は昔よりよくなってきている。だから、もう足るを知れ」。と結論づける。

 「足るを知れ」という言葉については、「お金をためること、名をあげることを自己目的化してはならない。金も能力も社会に還元してナンボ」とおっしゃる(実際はもう少しお上品)。確かに法王もそうおっしゃってきた。

 池上氏は、「日本は突出したお金持ちがいないため、寄付文化が存在せず、公共の福祉は国家がやるべきという考え方がある。私も昔はボランティアやチャリティは偽善と思っていたこともある」、と前置きした上で、「しかし」と池上氏は続ける

「私は2011年3月にはテレビの仕事をやめて本を書く仕事に集中しようとしていた。しかし、震災がおきて、ジャーナリストとしてこれを伝えなければいけないと、いくつかのテレビ番組にでた。しかし、震災関連でお金をもらうことはできないので、出演料や印税は被災地支援に回した」

 まあ一言でいうと、池上さんは、働かずに楽してお金をえることばかり考えていて、寄付をしたり、ボランティアをしたりする人を偽善とかいって足をひっぱる人たちに、

「あなたたちそんなことしていて幸せですか。お金も才能も地域や社会で生かしてはじめて、自分の幸せにつながるんだよ、」と説いているのである。

 最後に雑感。
 ダライラマの「ことば」シリーズ (『抱くことば』『許すことば』)は、法王の言葉が短すぎて物足りない、でも本格的な法王本を読むのは長すぎてつらいという人には、本書は説明に過不足い長さでかつ、お値段もお手頃。まあおすすめです。
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