白雪姫と七人の小坊主達
なまあたたかいフリチベ日記
DATE: 2015/07/22(水)   CATEGORY: 未分類
教科書内のチベット関連記事の変化
 自分、教育学部で教鞭をとっているため、そこいらに高校の歴史の教科書やら用語集がころがっている。で、先週、「そういえば、2013年の新学習指導要領にのっとって、ゆとり教育が若干緩和されたんだよな。チベットに関する記事はどうなったかな」と、山川出版社の世界史Bと世界史用語集を手にとってみた。
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 この二冊は言わずと知れた受験生必携の教科書と参考書である。

 で、めくってみてびっくり。2008年のあの北京オリンピックの年のチベット蜂起、翌年のウイグル蜂起のような、ついこないだの事件がのっている。それに、20世紀初頭の中華民国の成立の部分では、中華民国が、各民族の統合に成功していなかったことも明記している。

 以下メモもかねて、山川出版社と東京書籍のチベットの近現代史関連の項目を抜き書き対照させる。 
 
●山川出版社 世界史B「辛亥革命」の項

中華民国は、清朝の領有していた漢・滿・モンゴル・チベット・ウイグルなどの諸民族が居住する地域をその領土としたが、辛亥革命を機に周辺部では独立に向かう動きがおこり、1911年には外モンゴルが独立を宣言し、13年にはチベットでダライラマ13世が独立を主張する布告をだした。・・・しかし、チベット・新疆・内モンゴルなどの地域では、住民の民族運動、外国の干渉、および漢人軍閥の割拠などの動きが錯綜し、中華民国への統合は強固なものとはならなかった(太字の部分が新しく付け加わっている)
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▲東京書籍 世界史B「辛亥革命と中華民国の成立」の項

中華民国は清の版図を継承した。清末の光緒新政から中華民国の時期にかけては、かつての藩部が国土の辺境として再定義され、また、従来は漢族と上下関係にあったわけではないモンゴルやチベットの人々が、漢族主導の近代国家建設のもとに位置づけられる少数民族とみなされていくことにもつながった。そのため外モンゴル(ハルハ)では清末から自立・独立路線が強まり、チベットでも自立の傾向が強まった


▲山川出版社 世界史B「アジア社会主義国家の変容」の項
他方、中国国内のチベット自治区や新疆ウイグル自治区では、経済発展につれて漢族の流入が増加した結果、民族対立が激化し、チベットでは2008年、新疆では09年に暴動が発生した。

▲東京書籍 「中国の台頭と新興国」
対外政策では中国は主権・安全・発展を国益の根幹とし、・・・・・チベットやウイグルなどの民族運動をおさえ、台湾との統一を目指している。

 ちなみに、古代チベットやモンゴル帝国、清帝国におけるチベット仏教についての言及は旧教科書とほぼ同じで削られていない。参考までに清朝とチベット仏教の項目をあげるとこんなかんじ。

●山川出版社 世界史B「清朝支配の拡大」の項

清朝はその広大な領土すべてを直接統治したわけではない。直轄領とされたのは、中国内地・東北地方・台湾であり、モンゴル・青海・チベット・新疆は藩部として理藩院に統轄された。モンゴルではモンゴル王侯が、チベットでは黄帽派チベット仏教の指導者ダライラマらが、新疆ではウイグル人有力者が現地の支配者として存続し、清朝の派遣する監督官とともにそれぞれの地方を支配した。清朝はこれら藩部の習慣や宗教についてはほとんど干渉せず、とくにチベット仏教は手あつく保護して、モンゴル人やチベット人の支持を得ようとした。


私が高校の頃に使っていた世界史の教科書(帝国書院)をひっばりだして見てみると、チベット仏教は17世紀のモンゴルとの関係でちらっとダライラマがでてくる以外まったくなし。辛亥革命は漢族の視点のみで論じられており、ついでにいえばホーチーミンとかレーニンとかナセルの写真ばかりがめだち、当時の社会主義、第三世界マンセーの学会状況が見事に教科書にも反映している。

そいえば、若き日の私が山川の歴史散歩辞典の仕事をした時、世界史Bの教科書を記念にもらって、なにげにダライラマの項をひいてみたら、正確には覚えていないけど、「ツォンカパの弟子がダライラマ」とか明らかに間違った記述があったので、「あ、これいくらなんでもひどいのでなおしてね」といったのも懐かしい。

 当時、私は「教科書は、専門書でないのだから、学会の成果が反映するのはずっと先なんだろう。新聞なんかと同じできっと政治的な産物なんだろうな」と思っていた。しかし、今の山川の世界史Bの清朝とチベットの記述は、明らかにどこかの誰か(笑)が言い続けている「チベット仏教世界」の影響力を表現してくれている。事実がプロパガンダに勝利しはじめている。涙で前が見えません。

 この新しい教科書で育つ世代は、中国革命を賛美し、彼らが粉砕したさまざまな民族は、「解放」されたんだから感謝しているなんて教え込まれた世代よりも、もっと現実的に東アジア世界を見ることができるであろう。

  以下、メモかわりに、新旧の「世界史用語集」の項目ごとの比較をあげる。全時代を通じてチベットに関する項目は増えてはいても削られることはなく、とくに近現代の記述が充実していることをみてとれよう。斜線の左が新用語集の扱い点数。右が旧用語集の扱い点数。もともとの分母が新『世界史用語集』 2014年10月20日(1版1刷) 7冊中、旧『世界史用語集』 2013年1月31日(1版6刷) 11冊中と異なることに注意。

●唐と隣接諸国 (旧 東アジア文化圏の国々)
1. ソンツェン=ガムポ 6/9 (-649)
2. 吐番 7/11 (7世紀~9世紀)
3. ラサ 1/3
4. チベット文字 5/8
5. チベット仏教(ラマ教) 7/10

●清朝支配の拡大 (旧 清朝と東アジア)
6. 活仏 2/2
7. チベット仏教(ラマ教) 7/8
8. ダライラマ 6/9
9. ツォンカパ 5/6
10. 黄帽派 7/5
11. ラサ 5/3
12. ポタラ宮殿 6/3
13. パスパ 6/2 (1235-80)

●辛亥革命(旧 辛亥革命)
14. 外モンゴル独立宣言 6/なし (1911年12月)
15. チベット独立の布告 5/なし (1913年3月)
16. ダライ=ラマ13世 4/2 (1876-1933)

●中ソ対立と中国の動揺 (旧 動揺する中国)

17. チベット自治区準備委員会 1 (1956年発足)
18. チベット反乱 6/8 (1959年)
19. ダライラマ14世 5/4  (1935-)
20. チベット自治区  3/なし (1965年成立)
21. 新疆ウイグル自治区 3/なし (1955年成立)
22. 内モンゴル自治区 3/なし (1947年成立)

●アジア社会主義国家の変容(旧 アジア・アフリカ社会主義国の変動)

23. チベット、反中国運動 2/なし (2008年)
24. ウイグル、反中国運動 2/なし (2009年)
25. モンゴル、社会主義体制離脱 5/なし (1992年)
26. モンゴル国 3/なし (1992年成立)

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● 教育
masamune | URL | 2015/07/30(木) 21:37 [EDIT]
先日ある記事で、某福岡教育大学の准教授殿が政権批判デモの予行?を授業で学生に行わせ、処分待ちだそうです。
アホらしいのでリンクは設けませんが、学生が告発した、と愚考します。
そう愚考するならば、准教授殿を凌駕する知見を学生が備えていたことになり、或いはチベットの現状を考えれば安保反対とか唱えることって、何だよ、と賢察に及んだのなら、喜ばしい事件と拝読仕りました。
人格は自然に陶冶されますが、その発展を助長する教育であって欲しいものと貴記事の読後感を得ることが出来ました。
● 選ばれた教育課程
n. | URL | 2015/08/02(日) 20:21 [EDIT]
教科書はいろいろありますね。何故今になりチベット仏教が説明されたのか、選ばれる理由は今も昔も変わらないとは思いますが、誰かが助けてくださったのでしょうね。ありがたいですね。
歴史を学ぶ子供達の脳は、小学校で決まりますよね。尊敬する人としてダライ・ラマ法王があげられるのかなと思いました。ちなみに私の小学校の教科書には士農工商の下に神社仏閣がある、と書いてあり、赤線の向こうの人達の差別は良くない、皆平等であると、授業で学びました。
時代が変わったなと感じました。
● 教科書の困った点
Koi | URL | 2015/09/24(木) 00:28 [EDIT]
教科書の内容がどんどん良くなっているのは確かなのですが、その分、語句以外の説明部分が削られてしまい、どんどん文章の意味がとりにくくなっています。これは総ページ数(=教科書価格)が変わらないことには、どうしようもありません。その結果、高校生が実際に読むのは、せいぜい最初の十数ページ、という状況です。

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